波乱の多かった序盤戦も、心穏やかだった。立行司の41代式守伊之助(高田川)のことだ。3日目から3日連続で裁いた取組に物言いがついた。取り直しとなった5日目の結びの一番では、土俵外に落ちながら軍配を上げるドタバタ劇。それでも「見た目は必死でも中身は冷静です」と、心の平静を強調した。

今場所から行司の最高位、立行司に昇進した。40代式守伊之助が17年12月の巡業中、若手行司にセクハラ行為をした責任を取って退職。昨年12月25日付で式守勘太夫が41代として昇進することが、同9月の理事会で決まった。先代について「あの人は研究熱心で、今まで何度も行司としての教えを請いました」と振り返った。

59歳。「人間のバランスは体の中にある」と、日々の鍛錬で年齢を補う。朝1時間のウオーキングとスクワット100回が日課。土俵上の攻防に巻き込まれず、取組の細部を見渡せる好位置へ、最短距離で移動することが重要だ。「若くはないからこそ最低限のスピードが必要」と自覚している。力士でいえば、新横綱の地位。年齢を言い訳にせず、最高位として精進している。

【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)