王者井上尚弥(22=大橋)が衝撃のKO劇で、ド派手に初防衛を果たした。昨年末の試合で右拳を負傷して以来、1年ぶりのリングで、同級1位の指名挑戦者パレナスと対戦。2回にガードの上から右のオーバーハンドを打ち込みダウンを奪うと、再開直後の左ボディーで一気に仕留めた。

 井上と12月1日に結婚した、咲弥(さや)夫人(21)は観客席から声援を送った。勝利が決まると、思わず涙があふれた。「言葉にならない。思っていた以上にすごい人なんだなって、あらためて思いました」。

 神奈川・相模原青陵高1年時からの付き合いで、高校時代に達成したアマ7冠もすべて一緒だった。それでも、結婚して迎えるプロでの初戦、それも世界タイトルマッチは特別。「負けたら、結婚のせいだと言われることも考えた」とプレッシャーもあったが、やれることに徹した。「自分は存在感を消すようにした。ストレスを感じず、ボクシングのことだけを考えてもらいたかった」。

 特に気を使ったのが8キロにおよぶ減量中の食事だ。井上が契約する栄養士や、井上の母美穂さんに相談し、飽きがこず、低カロリー高たんぱくな料理を考えた。メーンを赤身の牛肉、鶏肉、豚肉、魚とローテーションにし、苦手なほうれん草は味付けを工夫。朝食にスムージーを出すなど、新しいメニューにも挑戦し、井上を支えた。

 そんな献身的な咲弥さんの姿を、美穂さんは安心して見ていたという。「出かける時にもマスクをしたり、そういう気配りができる子。結婚した時から『健康面は任せた』と思っている」と話す。22歳の井上にとって、愛妻の存在は今後の現役生活においてもさらに重要になってくる。衝撃的なKO劇で復活を遂げると「結婚はものすごく影響があった。より一層、負けられない思いは強くなった」と思いを口にした。井上には最強のセコンドがいる。【奥山将志】