無名の男が中国のスター選手を敵地で撃破し、世界を射止めた。

 WBO世界フライ級6位木村翔(28=青木)が、初防衛戦に臨んだ同級王者鄒市明(ゾウ・シミン、36)に挑戦。五輪2大会連続金メダルの強敵に加え完全アウェーながら、前半はボディー攻撃で足を止める。11回にロープ際に詰め、ラッシュでTKO勝ちを飾った。日本人として9人目でのべ10回目となる海外奪取で、創設73年目の名門ジムに男子初のベルトをもたらす金星となった。

 まさにアウェーだった。王者鄒は五輪連続金メダリスト、中国2人目の世界王者、テレビ番組で人気を博したスター。今回は鄒の夫人がプロモーターだった。木村の応援団は10人程度だったが、臆せずに立ち向かった。技巧派にポイントを取られたが、11回に連打で仕留める大金星になった。

 「距離がなかなか詰められなかったが、下から上の作戦だった」と、木村は前半はボディーでスターの身とプライドを削った。「11回は嫌がって疲れているのが分かった。一気にまとめよう、前に前に出ようと思った」。敵地でのTKOで、日本人では9人目の海外奪取を成し遂げた。

 中3の時に「強くなりたい」と、友達と地元の熊谷コサカジムに通い始めた。本庄北高では早々に遊び始めて離れた。卒業後は荒れた生活を送っていたが、23歳で「何か物足りない」と再びジムへ通いだす。思い切ってプロで上を目指そうと、会長の紹介で青木ジムでプロを目指した。

 当初の練習は2回も持たず、デビューは1回KO負け。時間はかかったが、昨年初挑戦でWBOアジア・パシフィック王座をつかんでめぐってきたチャンス。6月にタイで2週間合宿し、井上尚弥との世界戦に挑戦した選手らとのスパーリングで決戦に備えた。

 45年創設の名門ジムで、マネジャーだった有吉会長は06年に就任した。女子の小関が08年王座奪取で国内最多17度防衛中。男子はジム72年目の初挑戦で初の世界王者誕生だ。会長は「判定なら負け。信じられない。ワンチャンスをよくものにした」と感謝した。

 木村は母真由美さんを20歳の時にがんで亡くした。昨年11月のアジア・パシフィック王座獲得翌日には地元熊谷にある墓前に報告。今度は胸を張って世界の報告に行く。フライ級はWBAが井岡、WBCが比嘉と日本人王者が3人いる。一気に過熱する王座奪取にもなった。

 鄒市明のコメント 「日本からはるばる来た木村選手に拍手を送ってほしい。私は負けてしまったが、この試合で中国でのボクシングの関心が高まったのであれば良かった」。

 ▼木村翔(きむら・しょう)1988年(昭63)11月24日、埼玉・熊谷市生まれ。13年4月プロデビューで1回KO負けも、その後は2引き分けを挟んで負け知らず。昨年11月にWBOアジア・パシフィック王座獲得。戦績は15勝(8KO)1敗2分け。165センチの右ボクサーファイター。家族は父と弟。