王者勅使河原弘晶(28=輪島功一スポーツ)が同7位の入口裕貴(21=エスペランサ)を8回1分56秒でTKOし、初防衛した。試合後はバレンタインにちなみ、感謝を込めたチョコレートを客席にまいた。

アクシデントに屈しなかった。初回にいきなり右拳を負傷。握るだけで激痛が走るため、ほぼ左ジャブ、ボディーだけで攻めたが「痛くても打てー!」との輪島会長からのげきを受け、要所で右ストレートも打ち込んだ。

回を追うごとに入口の顔面を徐々に血で染め、最後は猛ラッシュで勝負を決めた。勅使河原は「引き出しの少なさを感じた。(右で)パンチを打つ練習しかしてないから、1発1発痛い。弱いパンチを打つ練習もしないと」と苦笑いで振り返った。

試合後、2人が思わぬ形で心を通わせた。勅使河原は過去に義母に虐待を受けて非行に走り、少年院へ。入所中に図書室でたまたま輪島会長の自伝「炎のチャンピオン」を読み、プロボクサーを志した。入口は試合後、勅使河原の控室を訪問。「(境遇が)めっちゃ似てるから、ほんまは戦いたくなかったんですよ」と明かし「もっと上に行って、そん時もう1回挑戦します」と再戦を望んだ。

横で2人のやりとりを聞いていた輪島会長は「ボクシングは相手次第でいい試合になる。がんばってがんばって倒したら、こっちも向こうも価値がある。いい相手じゃないといい試合にならない。素晴らしいよね」としみじみとこの日の試合を称賛した。

勅使河原は「同じ境遇と聞いて、背負っているからリングの上で向かってきてくれたんだと感じました。染み渡りました。入口選手と試合できて良かったです」と語った。

勅使河原からは、勝っても出てくるのは謙虚な言葉ばかりだった。1カ月前に井上尚弥とスパーリングし「ボッコボコにやられた」。その影響でスランプに陥り、恐怖心と向き合いながらこの日を迎えていた。少年院時代に夢見た世界王者へ。「今日勝ったところで世界とはならない。日本で1番強い相手とやって、勝ち上がって世界へ行きたい」と地道にはい上がっていく。