16年リオデジャネイロ五輪レスリング銀メダルの太田忍(27=フリー)が格闘家デビュー戦で完敗した。3年半ぶりの参戦となった所英男(43=リバーサルジム武蔵小杉 所プラス)に2回2分24秒、腕ひしぎ逆十字固めで敗れた。RIZIN初出場となったユーチューバーのシバター(35)は、元Krush65キロ級王者のHIROYA(28)に2回2分28秒、TKO勝ちした。

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ほろ苦い格闘家デビューとなった。太田はキメられた右腕を押さえながら「対策を十分とっていて、分かっていたけど強かった」と悔しさをにじませた。2回に寝技の攻防から一瞬のスキを突かれ、得意の形に持ち込まれてタップアウト。「自分も上からプレッシャーをかけていたし、まだ大丈夫だと思っていたところでキメられた。所選手の能力が高かった」と完敗を認めた。

開始からスピードとパワーのあるタックルで積極的に仕掛け、優位に立つ場面もあった。だが、下から腕をキメられ、顔面に蹴りを食らうなどダメージを受けた。持ち味を出せないまま終わり、試合後、所と抱き合う時もぼうぜんとした表情だった。「まだデビュー戦。始めたばかりの子どもと同じで今は伸びしろしかない」と前を向いた。

19年のレスリング全日本選手権で初戦敗退し、東京五輪への道が断たれたことで、かねて興味のあった総合格闘技への参戦を決意し、慣れない打撃を含めて強化してきた。「試合の作り方、戦術も含め、足りないものを補って強くなれたらいい」。五輪メダリストのプライドを捨て、試合後には所に「寝技の指導をしてください」と頭を下げ、了承を得た。

「負けん気は強い方なので、殴られて闘争心がわく。勝てれば、判定でもいい」と勝ちにこだわり続ける。試合巧者の洗礼を浴びたが、日本レスリング界の頂点を極めた男の戦いは、まだ始まったばかりだ。【松熊洋介】

◆太田忍(おおた・しのぶ)1993年(平5)12月28日、青森県生まれ。レスリングで全国少年大会4連覇、青森・倉石中では全国中学選手権連覇。山口・柳井学園高時代は新たに挑戦したグレコローマンで全国高校選手権連覇。日体大入学後は本格的にグレコに転向し、15年ハンガリーGP優勝。16年にリオデジャネイロ五輪で銀メダル。19年の全日本選手権では人生初の初戦敗退を喫し、東京五輪の道が閉ざされた。