RISE世界フェザー級王者の那須川天心(22=TARGET/Cygames)が、来年3月でキックボクシングを引退し、ボクシングに転向することを正式に発表した。10日、TBS系列の「炎の体育会TV」に出演し、番組内で22年中のデビューを目指すことを明かした。引退まで最大で4試合を予定しており、来年3月のRISE大会が最後となる。

弟の龍心とともに、ゲスト出演した那須川は、番組の最後に「やり切った。蹴りを捨てて、拳だけで勝負する」と語った。以前から転向をほのめかしており、今年2月には「キックボクシングをある程度広めることはできた。ボクシングでも貢献したい」と話していた。さらに「次元の違う相手は現代にはいない」。相手ではなく、自分(那須川)を倒すにはどうやって戦うかを考え、試合に臨むようになった。自身のユーチューブでは、人気漫画「鬼滅の刃」に出てくる必殺技を練習するなど、アニメの世界に敵を求めるほどで、キックボクシングの世界ではもはや敵無しの状態だった。

14年にプロデビューした那須川は15年5月に史上最年少の16歳9カ月でRISEバンタム級王者に輝いた。18年12月のRIZIN14大会のエキシビションマッチでメイウェザーに敗れた以外は、公式戦では44戦無敗(32KO)で、無類の強さは「神童」と呼ばれている。ここ数年は王者として迎え撃つ立場だったが、常に向上心を持ち「ずっと王者だとつまらない。下から挑戦して、強い相手を倒したい」と転向を決意した。

19年には元世界王者の亀田興毅と対戦。経験が少ない中、左ストレートをヒットさせるなど互角に渡り合い、センスの良さを見せた。同8月には井上尚弥とも対面し「刺激的な1日」と明かしていた。今年からはボクシングジムへ通う回数を増やし、パンチの技術などを身に付けているという。

納得の試合ができるようになったことで、転向がはっきりと見えてきた。2月のRISE横浜大会では志朗に3-0判定勝ち。リベンジを狙い、襲いかかってきた相手に心理戦で勝利。那須川自身もそれまでのテレビ出演を断って作戦を練るなど、この試合に集中していた。KOとはならなかったが「(志朗は)成長させてくれる時間をくれた」と達成感を口にした。さらに「他の選手も育って欲しい。形が変わってきて、試合して終わりじゃなくて、自分を売り出すくらいの気持ちがないといけない」と格闘技界の今後についても提言した。

引退までの1年間で、熱望されているK-1王者、武尊との一戦も期待される。昨年大みそかには武尊が、今年3月28日には那須川が、お互いの試合を観戦。所属の問題などもあり、これまで口を閉ざしてきたが、ようやく自分の言葉で話すようになった。武尊からのラブコールも受け「すべてこれから。長い期間だったけど、1歩前進した。やるなら準備期間をもらってしっかり調整したい」と意欲を見せている。K-1中村プロデューサーは「現段階では日程など調整中」としているが、29歳の武尊は「試合で負けたら引退」と公言していることもあり、世紀の一戦の実現に向け、早い決定が望まれる。

RISE伊藤代表は「苦しい思いもプレッシャーもあった中、それを跳ね返して味方にしてくれた。巣立っていくのは寂しいが、気持ち良く送り出してあげたい」とエールを送る。

この日の番組では、時速100キロのボールを左ストレートで正確に捉え、ホームランにするシーンもあった。本番での強さや能力の高さをあらためて示した。残り1年。カウントダウンが始まった。那須川は「正直もう悔いはない。22年3月で卒業するが、必ずボクシング業界でも革命を起こす」と語った。無敗のままキックボクシングを卒業し、新天地で世界を見据え、挑戦者としてスタートを切る。

 

◆那須川天心(なすかわ・てんしん) 1998年(平10)8月18日、千葉県生まれ。5歳で極真空手を始める。小5でジュニア世界大会優勝。その後キックボクシングに転向し、14年7月、RISEバンタム級7位の有松に1回58秒KOデビュー。15年にバンタム級王座獲得。16年12月にRIZIN初参戦。18年6月には階級を上げ、初代RISE世界フェザー級王者に輝いた。昨年6月から始めたユーチューブの登録者数は65万人。矢沢永吉の大ファンで入場曲は「止まらないHA~HA」。165センチ、56・8キロ。