ボクシングWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(28=大橋)がトリプルアッパーで防衛成功を狙う。

14日、東京・両国国技館でIBF世界同級5位アラン・ディパエン(30=タイ)との防衛戦を控え、7日には横浜市の所属ジムで調整。元WBA世界ミニマム級王者新井田(にいだ)豊氏の動画からヒントをえたアッパー3連発で2本のベルトを守る。

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WBA6度目、IBF4度目の防衛戦を1週間後に控えた井上は、神経を研ぎ澄ませていた。「もう仕上がっています。かなり良い状態です。これをキープするだけ」。減量もリミット(53・5キロ)まで残り4キロ弱と順調。この日、ジムでは暖房を入れてシャドーボクシング、サンドバッグやミット打ちで汗を流した。「気持ち的には1ポイントも取らせない判定勝ちを意識し、流れが来れば倒すボクシング」。充実した表情でディパエン戦を見据えた。

この日のミット打ちでも左アッパーの強打を確認した。この年末に向けたスパーリングでは、接近した状態から時折、強烈なアッパー3連打で練習パートナーを追い詰めていた。今年2月ごろから特にアッパーを強化してきたとし「あの左アッパーのトリプルは(元WBA世界ミニマム級王者)新井田(豊)さんの動画をユーチューブで見ていいなと思った」と解説。「次、あたり出るんじゃないですか」と“秘密兵器”としての手応えを口にした。

V7防衛成功の元世界王者の技術をすぐに体現できるわけではない。ミニマム級よりも4階級上とスピードも違う。アッパーを3連打するために「フィジカルがしっかりしていないと打てない」と断言。相手との距離感、位置を何度も試し「結構いろいろやりましたね」と熟慮を重ねた様子。「3発打つのは相手のリターン(パンチ)も来る。結構、使う勇気いるパンチなんです」と習得に時間を要したことを明かした。

下馬評では井上が圧倒的優位とされる。SNSなどを通じ、井上もファンの予想を目にしているが「こういう試合に限って自分を見失ってはいけない。自分が120%仕上げることができれば試合をクリアできると思う」。2年ぶりの国内防衛戦。井上が100%以上のコンディションでリングに立ち、トリプルアッパーをさく裂させる構えだ。【藤中栄二】

◆元WBA世界ミニマム級王者新井田豊とは 神奈川・横浜市出身。元WBA世界ミニマム級王座を2度獲得し、2度目の王者時代は7度の防衛に成功した右ボクサーファイター。96年に横浜光ジムから1回KO勝ちでプロデビュー。切れ味抜群のパンチで「名刀正宗」と呼ばれた元東洋フェザー級王者関光徳会長(当時)の指導で01年に初めて世界王座奪取。直後に腰痛と達成感で王者のまま王座返上したが、02年12月に現役復帰。04年に2度目王座奪取に成功。08年にローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に敗れて現役引退。

○…井上に挑戦するディパエンは隔離空間の宿泊先から1歩も出ずに最終調整をを続けている。ホテルではワンフロアが貸し切られており、関係者によれば廊下を走り、客室内でミット打ちなどを続けているという。午後1~3時までディパエンのために隔離状態にした大橋ジムを練習場所として提供しているが、大橋会長は「ジムには来ません。私も会ったことがない。練習を秘密にしている」と警戒していた。

○…4日に一般販売された井上防衛戦チケットは即日完売となった。イベント観客数制限緩和を受け、自治体との協議の上、5000人以上の有観客興行。井上は「すごくありがたい。感染対策に気を付けながら楽しんでもらえれば。その中で結果を出せば、今年は最高の1年で終われると思う。いろいろと楽しみ」と歓迎した。興行演出のためリングサイドの観客に白い服を着用するドレスコードをお願いしており「異空間というか、今までのボクシング興行にない世界が作れそう」と口にした。