WBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者井上尚弥（29＝大橋）が史上9人目の4団体統一に成功した。

WBO世界同級王者ポール・バトラー（34＝英国）との4団体王座統一戦に臨み、11回1分9秒、KO勝ち。勝負にいった11回、一気にラッシュを仕掛け、顔面とボディーに連打してダウンを奪い、レフェリーストップに追い込んだ。日本初、アジア初、バンタム級初の4団体統一を成し遂げ、試合後はスーパーバンタム級に転向すると明言した。

　　◇　　◇　　◇

その両拳で判定ムードを吹きとばした。11回。井上が牙をむいた。バトラーをロープに追い詰め、左フックを皮切りに怒濤（どとう）のラッシュ。左ボディー強打、左フックでダウンを奪った。前のめりに倒れてKO負けしたWBO王者を横目にコーナーによじ登り、大観衆と歓喜を分かち合った。「久びさの11回を戦って、疲れました。攻めて攻めて攻めた。少し疲れましたが、ベルト4本あるので気持ちいい」。ベルトの輝きを楽しみ、安堵（あんど）の笑みを浮かべた。

ガードを高く、3連打以上はしない守り重視のバトラーに手を焼いた。3回に右フックを連打した後、さらに鉄壁ガードした相手に対し、前傾姿勢、右からサウスポー変更、表情による挑発、8回には両腕を後ろに回すノーガードで誘った。「何をしに日本に来ているのかという（バトラーへの）思いもあった。本当に勝つ気があるのかと。引き出すため」という神経戦、頭脳戦もみせてKO撃破した。王者4人から全KOで1本ずつベルトを奪った4団体統一王者は史上初となる。

プロ初の出げいこ先は米ロサンゼルスだった。元6階級制覇王者パッキャオらを育成した名伯楽フレディ・ローチ氏のジムを拠点に2週間滞在。WBA世界スーパーバンタム級1位ホバニシヤン（アルメニア）ら世界ランカーとの実戦トレを消化した。世界トップの視線を浴びた実戦練習は「感覚がすごく伸びた」と振り返る。父真吾トレーナーは「日本でこの緊張感を継続しようとナオ（尚弥）に言ったら『そうだね』と。最後までロスの緊張感は途切れなかった」と強調。「米の刺激」が緊張感と集中力を最後まで持続させた。

大橋会長によるとバンタム級転向後、もっとも減量苦に悩まされた。「節制しても肉体が大きくなっていた。肉体負担を考えれば、これがバンタム級最後かな」ともらした。井上自らも「バンタム級でやり残したことはない」とスーパーバンタム級転向を表明。23年はまず4階級制覇を狙う1年になる。「リング上で最高の景色がみえた。会場のファンがみせてくれた。満足はしていますが、次に向けて切り替える」。タレントぞろいのスーパーバンタム級でも最強を追求する。【藤中栄二】