<川島郭志の目>

WBC、WBO世界スーパーバンタム級王者井上尚弥(30=大橋)が史上2人目となる2階級での4団体統一に成功した。WBAスーパー、IBF世界同級王者マーロン・タパレス(31=フィリピン)にTKO勝ち。スーパーライト級、ウエルター級で4団体統一に成功したテレンス・クロフォード(米国)に続き、史上2人目の快挙となった。WBC、WBO王座の初防衛にも成功した。

ボクシングの元WBC世界スーパーフライ級王者で、現役時代は「アンタッチャブル」の異名を取った川島郭志さん(53)が井上の世界戦をチェックした。

   ◇   ◇   ◇

タパレスはよく考えたボクシングをした。強打をまともに浴びないように両ガードを上げて応戦したり、右ガードを下げて、井上の右ストレートが届かないように後ろ足に重心を移して攻める。主にこの2パターンで戦っていた。だから井上も右のパンチを当てるのに苦労した。

ただ、それも想定内だったはずだ。そもそもサウスポーにあれだけ深く構えられると右は届かない。井上もよく考えて戦った。象徴的なのが10回のKOシーン。いきなりの右が当たらないので最後はワンツーに切り替えた。左のワンで踏み込んで、ツーで放った右ストレートで倒した。

公式採点を見れば分かるが、試合を通じて井上が優勢で、私の採点でも中盤にどちらに振り分けてもいいラウンドが1、2回あっただけだ。タパレスも中盤にボディーを狙って展開を変えようとしたが、それが精いっぱい。そこが井上の強さをまた際立たせていた。

井上は空振りもあったが、決定打ももらっていない。確かにタパレスの右フックを警戒してコンビネーションはあまり打たなかったが、苦戦ではない。もし苦戦したように見えたとしたら、期待がそれだけ大きいということ。それも井上のすごさを物語っている。

スーパーバンタム級は2試合目だが完全にフィットしている。しばらくはこの階級で強敵相手に防衛戦を重ねると聞いた。彼はパワーもあるが、テクニックも素晴らしい。この適正階級でもっといろんな井上を見たい。(元WBC世界スーパーフライ級王者)