<WBA世界フライ級暫定タイトルマッチ12回戦>◇1日◇タイ・バンコク

 もう1人の3兄弟の長男コウキが、暫定世界王座獲得を果たした。WBA世界フライ級7位江藤光喜(25=白井・具志堅)は、暫定王者の同級1位コンパヤック・ポープラムック(31=タイ)の初防衛戦で対戦。初回からリーチを生かした攻勢で、最終回にはダウンを奪った。アウェーのハンディも3-0の判定勝ち。19戦目にしてタイでの日本人世界戦初勝利で、具志堅用高会長(58)が育てた男子初の世界王者となった。日本ではWBA暫定王者は認定されないが、亀田3兄弟に負けじと長男が世界へ先陣を切った。

 厳しい顔だった江藤の右手が上がる。その瞬間、びっくりしたような顔で大口を開けて、声にならない声の雄たけびに続いて涙が落ちた。「判定では勝てない。序盤勝負」と臨んだ一戦。その判定に持ち込まれたが打ち勝った。

 初回から攻めた。身長差19センチで長いリーチから右ストレートを突き刺す。終盤にラッシュでロープに追い込み、王者が背を向けてロープに寄り掛かる。ダウンと思われたが、レフェリーはスリップとした。

 再三ホールディングなどの注意を受ける。江藤は2年前にタイで試合した。地元びいきの強烈なアウェーにも冷静で、中盤の打撃戦でも1歩も引けをとらない。「あの経験が生きた。あきらめなかっただけ」と攻めた。

 ついに最終回に、連打を浴びせてダウンを奪った。判定は3-0だったが、1人のジャッジは5ポイント差も2人は1ポイント差。ダウンがなければ負け。タイでの日本人の世界戦は過去1分け17敗。金星と言える勝利をつかみとった。

 昨年は腰を痛めてブランクも、11月の復帰戦で2回KOで世界ランク入り。一気に世界戦線に浮上した。「あれで自信をつけ、強くなった実感があった。打ち合ってくれば勝機と思っていた」と振り返った。

 ボクシングは双子の弟大喜(たいき)が先に始めた。県で優勝してちやほやされる姿に兄は発奮。4カ月で県を制した。上京してグローブを置いたが、弟にプロ入りを誘われた。「やるなら沖縄の英雄の元で」と白井・具志堅ジムを選んだ。

 当時は亀田フィーバーに「なにくそ」の思いも、今や「すごい」と話す。国内では世界王者と認定されない暫定王者と、こちらはスタートラインに立ったところ。「次も絶対に勝つ」。一気に正規王者レベコ(アルゼンチン)も撃破で真の世界王者へ突き進む。

 ◆江藤光喜(えとう・こうき)1988年(昭63)2月8日、沖縄・浦添市生まれ。高3でボクシングを始めて県で優勝。白井・具志堅ジムに入門し、08年8月プロデビューは1回KO勝ち。172センチの右ボクサー。戦績は14勝(9KO)2敗1分け。大喜はWBA世界スーパーフライ級14位、末弟伸悟(24)はフェザー級で、一軒家に3人で住む。大喜と人気ラーメン店千里眼で働いている。