大相撲の元大関貴ノ浪で幕内優勝2回を記録した音羽山親方(本名・浪岡貞博)が急死した。20日午前、急性心不全のために大阪市内のホテルで倒れ、搬送中に亡くなった。43歳だった。

 異能の力士だった。長身を生かして相手を引っ張り込む強引な取り口。巨漢の曙、武蔵丸らだけでなく、舞の海、智乃花ら相撲巧者をも力技で封じ込めた。

 ところが相撲理論は業師顔負けで、支度部屋ではテレビ中継を見ながらひとくさり。横綱貴乃花が土俵際で逆転負けすると「差した方に出ないと」、右上手を引いた魁皇が敗れると「上手を引きつけないと。振り回しているから」と名解説ぶりを披露してくれた。「分析通りに相撲を取れば」と話を向けると「それができたら横綱になってるよ」と笑わせた。

 相撲以外でも異彩を放った。96年初場所では、出番を待つ土俵下で審判委員よりも早く物言いをつけた。今では常識になりつつあるが、当時は記者でさえほとんど知らなかった。本人は「あってて良かった」と安堵(あんど)の表情だった。

 その初場所で初優勝を飾った。優勝決定戦で貴乃花をかわず掛けで破った。支度部屋の誰もがアッと息をのんだ。全盛期の横綱さえ「頭になかった」という奇策だった。いつも通り笑って引き揚げてくるかと思ったが、目は真っ赤。異能力士の本当の姿を見た思いがした。【飯田玄】