大関高安(27=田子ノ浦)が正式に誕生した。日本相撲協会は5月31日、名古屋場所(7月9日初日、愛知県体育館)の番付編成会議と臨時理事会を開き、高安の大関昇進を全会一致で承認した。都内のホテルで行われた伝達式では「正々堂々」の言葉を口上に使い、兄弟子の横綱稀勢の里との同部屋優勝決定戦にも思いをはせた。

 表情ひとつ変えない土俵上の姿とは、違っていた。使者を待つ間、高安は時折、目をつぶった。口がもごもごと動く。「絶対にかまないように」と何度も復唱していた。緊張が伝わった。そして、使者が来た。いざ本番。「謹んでお受けいたします。大関の名に恥じぬよう、正々堂々精進します」。力強い口上が響いた。

 式後は苦笑して「裏返っちゃった」と頭をかいた。実は出だしの「つつしんで-」の声が裏返っていた。式前に稀勢の里から「(横綱昇進伝達式の)オレみたいにかまないように」と助言されていた。それも緊張につながったか。「相撲を取るより緊張しました」と笑った。それでも、言葉はよどみなかった。「この世界に入って、まさか自分がこの場に立てるとは思っていなかった。今日を迎えられたことを本当に幸せに思います」と感慨に浸った。

 「正々堂々」の四字熟語に思いを込めた。「一番好きな言葉。自分の覚悟として選びました」。先代師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)からよく言われていた。「力士は感情を表に出してはいけない」「相撲の美しさは勝っても負けても、正々堂々の潔さにある」と。

 1年前から堂々としたたたずまいを心がけた。以前は闘志を前面に出していた。心を波立たせないようにすると、成績は上がった。「どんな状況でも顔色ひとつ変えずに胸を張っている。それが自分の大関像。この言葉に少しでも近づけるよう精進したい」と誓った。

 「兄貴」と慕う稀勢の里の横綱昇進から2場所。春場所は初日から10連勝で並走しており、現実味を帯びる20年ぶりの同部屋優勝決定戦も「できたら最高ですね」と夢見た。「ここから上(の横綱)に上がるには優勝しかない。現状に絶対に満足せず、向上心を持って上を見たい」。堂々と言ってのけた新大関。平成世代の旗手が時代を変えようとしている。【今村健人】

 ◆高安晃(たかやす・あきら)本名同じ。1990年(平2)2月28日、茨城県土浦市生まれ。小4から野球を始め、相撲経験はなし。05年春場所で鳴戸部屋から初土俵。10年九州で舛ノ山とともに平成生まれ初の新十両。11年名古屋の新入幕、13年秋の新三役も平成生まれ初。得意は突き、押し、左四つ。三賞は殊勲3回、敢闘4回、技能2回。金星4個。家族は両親と兄。元AKB48で女優の秋元才加は幼なじみ。186センチ、174キロ。血液型A。