21歳で幕内最年少の東前頭3枚目阿武咲(阿武松)が、横綱初挑戦で日馬富士を破り、初金星を獲得した。横綱初挑戦で初金星は、今年の名古屋場所の北勝富士以来。全勝だった平幕の琴奨菊、千代大龍、貴ノ岩、大栄翔が敗れ、阿武咲が、16年名古屋場所の逸ノ城以来となる5日目での平幕単独トップに立った。
支度部屋に戻った阿武咲は、興奮を抑えきれなかった。大量の汗を流しながら「あんまり覚えていない。でも座布団が見えた時に『勝ったんだ』と思った。うれしかった」と初金星の味をかみしめた。
スピード自慢の横綱に、引けを取らない立ち合いだった。それでも押し込まれたが土俵際で左に動き、体勢を崩した相手の頭をはたき込んだ。「緊張はなかった。その空気が楽しかった。行司の『これにて打ち止め』を聞いて、そこで相撲を取っているんだと思った」。初の横綱戦で初の結びの一番。不思議なくらい緊張はなかった。
自然体で相撲を取ることを覚えた。15年初場所で新十両に昇進したが、16年夏場所で幕下に陥落した。その時に、初めて相撲と真剣に向き合った。「負けたら同じ道を通らないとか、食べ物を全部変えたりとか。勝った日と同じことをしたりもした。しばられていました」。験を担ぐタイプだったが、屈辱を機に一切やめた。「自然体でいようと」。だから無心で土俵に上がれた。
3横綱1大関の休場に加えて、上位陣が総崩れの今場所。頼もしい存在の出現に八角理事長(元横綱北勝海)は「この力士には気負いがない。立派なものですよ。怖いもの知らずの勢いが感じられる。優勝の権利はある」と期待をかけた。優勝争いのトップに立った阿武咲は「結果であって意識することはない」と冷静。強心臓の21歳が、今場所を引っ張っていく。【佐々木隆史】
◆阿武咲奎也(おうのしょう・ふみや)本名・打越(うてつ)奎也。1996年(平8)7月4日生まれ、青森県中泊町出身。中里中2、3年時に全国都道府県中学生選手権の個人戦で史上初の連覇。三本木農高1年時に国体少年個人で優勝。1年時に同校を中退して角界入りし、13年初場所で初土俵を踏んだ。15年初場所で新十両。今年の夏場所で新入幕に昇進して、1場所15日制が定着した49年夏場所以降、初代若乃花や白鵬らと並び、7人目の2場所連続2桁勝利中。得意は突き、押し。176センチ、155キロ。通算186勝127敗1休。