東前頭筆頭の若隆景(26=荒汐)が、新三役候補の存在感を示した。かど番の大関正代を一方的に寄り切り、初日を出した。

祖父は元小結、父は元幕下、そして3兄弟が現役力士という相撲一家に育った。127キロと小柄ながら、脈々と受け継ぐ相撲の技術が光った。初日はそろって白星の4大関は照ノ富士だけが勝ち、朝乃山、貴景勝、正代に早くも土がついた。

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体重127キロの若隆景が、168キロの大関正代を圧倒した。低い立ち合いから前に出て攻め込む。「差されないように、下から押し上げることを意識した。よく体も動いたし、よかったと思う」。大関にほぼ何もさせない。下から下からの攻めで、正代の上体を浮き上がらせて寄り切った。

再入幕6場所目、自己最高位で迎えた。今年初場所は新型コロナウイルスの影響で部屋全体が休場となったが、昨年九州場所(7勝8敗)を除き、3場所で2桁勝利を挙げている。西前頭2枚目の先場所も10勝5敗の好成績ながら、前頭筆頭に据え置かれた。それでも「一番一番、やるだけです」と言った。

相撲は「必然」だった。祖父は元小結若葉山で、父は元幕下の若信夫。長兄の若隆元は西幕下38枚目、次男は東十両9枚目の若元春の現役力士3兄弟の末弟で小学1年から相撲を始めた。体は大きくならなくても、相撲の技術を磨く環境は十分にあった。低い姿勢から攻め上げる相撲は、親方衆も高く評価している。

場所前の合同稽古でも、正代の胸を借りた。「稽古をつけてもらった、そういう感触は持っていた」。腰高とされる正代の特徴を逆につかみきっていた。「自分の形になればある程度、相撲はとれる。自分の相撲を信じていきたい」。その言葉を土俵で示した。

福島市出身。学法福島高在学時に11年の東日本大震災を経験した。その時から復興に励む故郷を勇気づける思いも強く持った。震災から10年を迎えた後の先場所後も、故郷を勇気づける活躍を誓い、技能賞を獲得した。

横綱不在で大関陣も不安定と混戦の場所が続く。若隆景にとっては、そんな状況はチャンスになる。「勝ち越しを目指して、しっかりやりたい」。堅実な言葉に意欲がにじんだ。【実藤健一】

 

▽八角理事長(元横綱北勝海) 若隆景は、おっつけなど右からの攻めが良くうまい相撲を取った。小兵でも跳んだり跳ねたりせず実力でいい相撲を取る。当たりがいいから流れがいい。照ノ富士は押し込んでいるから余裕がある。冷静に相撲を取れている。