元関脇寺尾の錣山親方が、17日に亡くなった。60歳だった。

通算出場1795回は歴代4位、通算860勝は同10位、幕内在位93場所は同6位、幕内出場1378回は同5位…。「鉄人」と呼ばれた寺尾は多くの記録を持つが、負の記録もある。

通算938敗。現在の最多は旭天鵬(現在の大島親方)の944敗だが、8年前までは寺尾が最多敗の記録保持者だった。

12年前の7月、錣山親方に聞いた。「最も多く負けた、この記録は親方にとってどういうものですか?」。嫌がられるかと思いきや、真っすぐこちらを見て、即答した。

「むしろ、誇りだよ」

そう切り出して、言葉を続けた。「負けが多いのは、それだけ関取で長く取れたということ。若い衆だと、1場所全敗しても7敗だから」。15戦全敗を続けても10年以上かかる938敗。のちに横綱貴乃花となる貴花田との初顔合わせでは、敗れた悔しさで、さがりをたたきつけた。誰より多く悔しい思いを重ね、次の土俵へ目を向けてきた。

負けを知るからこそ、弟子への言葉は重い。「負けても腐るな。腐ってもいいことはない。悔しがってもいいけど、腐るな」と指導する。

勝ち続ける力士は、ほんの一握り。錣山親方は生前、こう言っていた。「みんなが頑張ることの大切さを覚えてくれればいいんです。横綱、大関をつくりたいと思っているのとはちょっと違う。もちろん、できればいい。でも大半は相撲界にいる時期は短いじゃないですか。一生懸命頑張ると、道は開けるんです」。負けても、腐るな。そんな教えを貫いてきた。

引退し、第2の人生を歩む弟子たちは皆、歯を食いしばって生きている。師匠危篤の連絡を受け、遠方から病院へ駆けつけた者も多くいた。錣山親方は病に倒れたが、不屈の魂は受け継がれている。【佐々木一郎】