本場所中にコラム「若乃花の目」を執筆する元横綱若乃花の花田虎上さん(53)が初場所を総括した。

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お相撲さんの正月は初場所が終わってから、と昔から言われますが、新年早々に新大関が誕生します。まずは琴ノ若関、おめでとうございます。異論のない数字を挙げたし1場所ごとに力をつけています。相撲のうまさも私(明大中野中・高)も実感しますが、アマチュア時代(埼玉栄高)に徹底的に学べたことで備わっていて、大関の器量は十分だと思います。

ただ、これからが大変です。もう1つ上の番付を目指すためには、立ち合いの当たりとパワーが足りません。今場所の照ノ富士との2度の対戦を見ても、その差は筋力の大きさに表れています。スーッと立ち上がるようなフワッとした立ち合いでは番付下位でもつけ込まれます。体の大きさ、柔らかさを生かすためにも稽古と筋トレの両方をバランス良くやって、今までと違う試みを採り入れてもいいかもしれません。横綱、大関という地位は自分のためだけではなく、後輩を引っ張り上げ次の世代を育てる責務もあります。おめでたい日にいろいろ注文しましたが期待しています。

一方で綱とりを目指した霧島は昇進を逃しました。場所中の評論でも指摘しましたが、相撲が受け身になっていました。攻撃は最大の防御です。変に「横綱」の2文字を意識せず、霧馬山時代からの頭をつけるとか食い下がるとか、受け身にならずとにかく恐れず攻める相撲を貫くことです。場所前の稽古は何十番と取っていたそうですね。その姿勢をこれからも辛抱して貫けば、必ず結果はついてきます。応援してくれる一般のファンの人だって、みんな死ぬまで苦しい中、頑張っています。堅忍不抜の精神で乗り越えましょう。

話は変わりますが、最近の場所中の稽古はどうなんだろうと気になりました。私の現役時代は、場所前の稽古は当然として同じように本場所中も変わらず猛稽古でした。そうすることで不思議なことに、場所に行っても緊張しないで動けるんです。稽古を休んだり体を動かすだけの「調整」は引退間近の晩年の力士がやること。場所中の稽古も大事にしてほしいですね。あとは場所前の出稽古で横綱の胸を借りて、少しでも近づけるように力をつけてほしい。照ノ富士には、あと2年は続けてほしいけど今でもギリギリの状態かもしれません。それでいて初場所では、横綱とそれ以下の差は歴然としています。横綱にぶつかって、その強さを肌で感じられるチャンスと思って挑んでください。

余談になりますが、最近よく知人に言われるのですが「協会を辞めても横綱になったんだから相撲年金で生活は楽でしょう」と。そう言われる方は、野球など海外スポーツの世界のことを引き合いに当然、国技相撲にもそんな制度があると思われているのでしょう。入門者の減少傾向に歯止めがかからない中、少しでも子どもたちや親御さんに魅力ある競技団体だということを発信するためにも、制度導入を考えてもいいのかな、と私なりに考えます。OBである私はけっこうです。これからの若い世代のためにです。

もう1つ、公傷制度の復活も提言したいところですが、これはまた別の機会があればと思います。最後に恒例の今場所の三賞です。優勝は逃しましたが殊勲賞は琴ノ若、敢闘賞は大の里です。若元春を選ばなかったのは、彼の実力はこんなものではないと思うから、お預けです。ではまた春場所まで皆さまお元気で。(日刊スポーツ評論家)