[ 2014年7月5日7時51分

 紙面から ]6月20日、イタリア戦でのルイスのゴールを喜ぶピント監督(撮影・PNP)

 W杯ブラジル大会の台風の目コスタリカが、強豪オランダを相手に金星を狙う。コスタリカのホルヘルイス・ピント監督(61)は若き日、当時、独1部ケルンを指揮していたオランダ人の名将ミケルス監督から「トータルフットボール」を学んだ。大きな影響を受けた、そのオランダサッカーを相手に、勝利で「恩返し」する。

 コスタリカのピント監督にとって、オランダと戦うことは運命だ。同監督は3日、準々決勝に向け「オランダとの試合は、我々がW杯で最高のディフェンスを持っているかどうかのテストになる。我々はここ4試合で、1人少ない状況と、PKでしか失点していないんだから」と、強い決意を示した。

 ピント監督は80年代前半、人間科学教育に定評のある独ケルン大学に留学していた。そこで衝撃的な出会いを果たしていた。当時ブンデスリーガ、ケルンの指揮官だったオランダ人の故リヌス・ミケルス氏(77歳で死去)。選手が流動的に動き、全員攻撃、全員守備を掲げる「トータルフットボール」の礎を築き、99年にはFIFAから「20世紀最高の指導者」として表彰された。

 ミケルス氏は74年W杯西ドイツ大会でオランダを準優勝に導き、後に同国唯一のタイトルとなる88年欧州選手権優勝を成し遂げた名将。ピント監督は居ても立ってもいられず、授業のない日には、ケルンの練習に通いつめた。「あの頃は彼の練習を見て、彼に話しかけることに多くの時間をつぎ込んだ。たくさんのことを学んだよ」。準々決勝は、ミケルス氏の遺伝子を色濃く受け継ぐファンハール監督との“同門対決”となる。

 ただ、今大会のコスタリカにトータルフットボールの色はあまり見られない。予選でチーム最多の8点を挙げたエースFWサボリオ(ソルトレーク)が、右足骨折で登録メンバーから外れたためだ。オランダがここまで1試合平均3点を奪っているのに対し、コスタリカは平均1・3得点。ピント監督は攻撃的に戦うことよりも、堅守速攻でFWルイスを中心に少ないチャンスを生かす戦い方を選んだ。

 その姿勢はオランダ戦も変わらない。「ロッベンはどのチームにとっても悪夢になりうる存在。スペースを与えてしまった時のオランダはとても危険だ」と、まずは相手の得点源をストップする。1次リーグではウルグアイ、イタリアというW杯優勝国を倒してきた。4強入りすれば北中米カリブ海勢としては第1回大会の米国以来。ピント監督は84年ぶりの快挙で、あの時の恩返しをする。

 ◆ホルヘルイス・ピント

 1952年12月16日、コロンビア・サンギル生まれ。プロ経験がないどころか、アマチュアとしても選手としての実績はほとんどなし。少年時代からサッカー関連書籍を読むことで知識をつけ、サンタフェなど母国コロンビア国内のクラブで指導を始めた。97年にアリアンサ・リマでペルー1部優勝。04年にコスタリカ代表監督に就任し、07年にはコロンビア代表監督。11年から再びコスタリカの指揮を執る。13年中米選手権優勝。

 ◆トータルフットボールとは

 60年代から70年代にかけてミケルス氏によって考案され、同氏が率いたアヤックスや、74年W杯のオランダ代表で最初に用いられた。全選手が流動的に動きながら攻撃を構築し、従来のFW、MF、DFの枠にとらわれずに全員で攻撃、守備を行う。その概念はミケルス氏のもとでプレーしたヨハン・クライフ氏へと受け継がれ、ボール保持率を高めながら相手を崩すバルセロナの「ティキ・タカ」戦術の基礎となった。アヤックス、バルセロナを歴任したオランダのファンハール監督もトータルフットボールの影響を強く受けている。