前作「ミッション:インポッシブル ローグ・ネーション」から3年、56歳になったトム・クルーズがさらなる過酷なアクションに取り組んでいる。

 シリーズ第6作の「フォールアウト」(8月3日公開)。前作では上昇する輸送機の外壁ドアにしがみついて見せたが、今回は酸素吸入が必要な高高度からのパラシュート降下や乱高下するヘリコプターからぶら下がったり、そのヘリを実際に操縦したり…。回を追うごとにハードルを上げる挑戦はどこまで行くのか、心配になるくらいだ。

 長尺2時間28分の密度の濃さといい、いつの間にか尊敬の念が湧いてきた。さすがはトムだ! やっぱりトムだ!

 諜報組織IMFのエージェント、イーサン・ハント(クルーズ)のチームは盗まれたプルトニウムの回収を目前にしていた。が、その寸前に何者かによって奪い去られてしまう。仲間の命を優先したハントの判断がもたらした結果だった。

 再回収ミッションには、CIAからお目付け役が派遣され、因縁のテロリストや美人ブローカーも登場…文字通り回避インポッシブルと思われる危機が次々にチームに降りかかる。

 シリーズ毎度のことだが、冒頭からいきなり緊張感を強いられる。試写室では東京駐在の米国人記者が隣席。この人がけっこう声を漏らす。格闘シーンでハントがいかにも痛そうな一撃を食らうと「アァ」。やけくそに見えた行動が実は計画された脱出ルートに沿っていたことが分かると「ンム」。笑ってしまうような奇跡が起こると「ホッホ」という具合だ。

 最初は気になったのだが、しだいに私自身も意図せずにノドが鳴り、声が漏れてしまう。スポーツ観戦に似た感覚で、クルーズの体当たりに「声援」したくなるのだ。声を上げたらひんしゅくだろうが、漏らすぐらいなら許されるだろう。

 これまで一期一会的に作品ごとに監督を替えてきたクルーズが今回は前作と同じクリストファー・マッカリー監督との再タッグだ。監督は「シリーズの要は人間に可能な限りグリーンスクリーン(合成用の背景)は使わず、実際にできるスタント、アクション、そして実際のロケ地を活用することだ」と断言する。アクションの球際にピタリと息が合い、ギリギリのスリルを生み出している感じがする。

 最近では危機一髪を「3秒残し」くらいのリアルで表現する作品が多くなったが、クルーズは堂々の「残り1秒」で勝負する。スタント・コーディネーターのウェイド・イーストウッドは「実際に行ったアクションだから、どんなにぎりぎりのシーンでも決して『漫画』にはならない」とリアリズムのゆえんを語る。

 クルーズが足首を骨折して話題になったのはビルからビルへの跳躍シーンだ。「彼はすぐに立ち上がり、できるだけ早く走り去ってから倒れたんだ」と監督は振り返る。痛々しいまでにリアルな映像になっている。6週間で撮影再開、10週後には走れるようになったというから56歳にしてアスリート顔負けの回復力である。

 パリ凱旋(がいせん)門の周回道路を舞台にしたカーチェイスも見どころの1つだ。プロのスタントマンでも難しいバイクシーンでは「トムは4テイク中3回で完璧だった」とイーストウッドが明かす。もはやトム様と呼ばなくてはいけないだろう。

 回を追って常連メンバーの個性も上書きされているが、1番の注目はベンジー役のサイモン・ペッグだろう。「M:i:3」(06年)ではハントの遠隔アシスト役であり、「ゴースト・プロトコル」(11年)で現場を踏み、前作では腕を上げたところを見せたが、今回はすっかり諜報部員然としている。そんな成長ぶりを体現するペックの巧者ぶりがシリーズの厚みになる。

 女優陣4人は花を添えるというよりは軸になり、めまぐるしい展開にしっかり絡んでくる。特にブローカー役のヴァネッサ・カービーに引き込まれるような魅力があった。

 余白のないぎゅう詰めの内容で、息をつけるのはエンドロールが回ってからだ。【相原斎】

「ミッション:インポッシブル フォールアウト」の1場面 (C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved
「ミッション:インポッシブル フォールアウト」の1場面 (C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved