80年に第1作「のび太の恐竜」が公開された「映画ドラえもん」シリーズも42作目を迎える。3日公開の新作「のび太と空の理想郷」は、NHK大河ドラマ「どうする家康」の古沢良太氏を脚本に迎え、テレビシリーズを数多く手がけた堂山卓見氏が長編監督デビュー。声のゲストにKing&Prince永瀬廉、主題歌にNiziUというぜいたくな布陣だ。

大人が見ても十分に楽しめるシリーズだということは承知しているが、典型的なファミリー映画ということもあってなかなか紹介する機会がなかった。正直に言えば、自分の子どもたちが適齢を迎えた90年代の中盤以来、距離を置いていたシリーズである。そして今、孫たちが適齢を迎え、ここ2、3作が2度目の「ガン見期間」というわけだ。

90年代にはドラミちゃんを主人公にした短編の併映作品が付いていたが、06年の「のび太の恐竜2006」以来それがなくなり、本編が10分程度長くなった(今作は1時間47分)。小学校就学前の児童には、「耐久時間」を超える長さかもしれないが、その分肉厚な内容になっている。

今作では、冒頭出来杉クンがトマス・モアの16世紀の著作「ユートピア」を紹介するシーンがあり、この空に浮かぶ三日月形の理想郷を巡って物語が展開する。タイムツェッペリンと呼ばれるひみつ道具の飛行船が登場。理想郷では何もかもが完璧なパーフェクトネコ型ロボット、ソーニャ(声・永瀬廉)が現れる。

理想郷には当然のように裏があり、のび太やドラえもんがその謎を解き明かしていく展開だ。

近作の映像の立体感には驚くばかりだが、藤子・F・不二雄さんが作り上げた登場人物それぞれの個性は歴代の作家たちにしっかり受け継がれている。

初ドラえもんの古沢氏も初長編の堂山監督もユートピアという隔世壮大な題材を扱いながら、むしろオーソドックスに起承転結をつづっている。

冒頭で行方をくらましたのび太の「0点答案」もラストでしっかり着地。安心の幕切れがうれしい。

ゲスト声優の中では、未来デパートの配達人、山里亮太の無責任な感じが適齢観客の笑いを誘いそうだ。

いつ見ても、このシリーズにはハズレがない。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)