演劇集団キャラメルボックスの最新作「スロウハイツの神様」を見て、思わず涙があふれてきた。

 作家辻村深月の同名小説の舞台化だが、辻村自身は高校時代に「俺たちは志士じゃない」を見て以来のキャラメルボックスファンで、自分の作品はキャラメルの影響を受けていると公言しているほどだ。辻村はその魅力を「元気をもらうんです。見終わった後に流すのが悲しみではなく幸せの涙だから」と言っているが、今回も、いい舞台を見た時に必ず感じるカタルシスによる自然な涙だった。

 70年代から演劇を見続けている。つかこうへい事務所公演にはまり、その解散後は、野田秀樹率いる「夢の遊眠社」を追いかけた。三谷幸喜の東京サンシャインボーイズ、男6人だけの劇団カクスコも大好きな劇団だったが、いずれも解散して、今はない。キャラメルは85年の結成だが、初めて見たのは88年の新宿シアターモリエールだった。当時の若手劇団は、とがった作品を上演していたが、キャラメルは違った。「人が人を想う気持ち」をテーマに、「だれが見ても分かる、楽しい作品」を上演してきた。

 90年の観客動員は1万人だったが、95年に当時は劇団員だった上川隆也がドラマ「大地の子」で人気者になると、飛躍的に動員を伸ばし、98年には年間4万人を突破した。成井豊と真柴あずきが脚本・演出を手掛け、「四月になれば彼女は」「カレッジ・オブ・ザ・ウインド」「ナツヤスミ語辞典」などオリジナル作品だけでなく、「クロノス・ジョウンターの伝説」「流星ワゴン」「時をかける少女」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」など人気小説を原作にした舞台も数多い。

 当初は中高校生から20代、30代のファンが多かったが、創立30周年を超えた今では中高年層のファンも増え、60歳以上のシニア料金の設定や、若い人に手軽に見る機会をと、当日券に限って「ハーフチケット」販売も行っている。

 営業努力も怠らないが、2011年の東日本大地震以降、状況が変わったという。観客動員が減り、特に夜公演が苦戦している。かつては見に行くと満席だった客席に、空席を見るようになった。

 しかし、今回の「スロウハイツの神様」は満員で、若い女性だけでなく、中年の男性客も散見した。そして、記者だけでなく、隣にいた男性客もハンカチで涙をぬぐっていた。年間かなりの数の舞台を見ているが、見終わって、がっかりするものが多い。しかし、キャラメルボックスだけはこれまでに裏切られたことはない。いつも、幸せな気持ちをもらっている。「人が人を想う気持ち」を愚直に追い続けてほしい。【林尚之】