舞台好きの落語家は多い。歌舞伎座に行くと、落語家の姿を見かけることもしばしばだ。今は体調の問題もあって見かけなくなったが、桂歌丸も歌舞伎座の常連だった。日本舞踊を習っている落語家も少なくない。見るだけでなく、実際に「役者」として出演する落語家も多い。落語家が余興で芝居をすることがあるが、それを「鹿芝居」という。噺家(はなしか)が芝居をするから「鹿(しか)芝居」と名付けられた。

 私が演劇を担当し始めた時、古今亭志ん朝はよく大劇場に出ていた。師匠として慕う三木のり平の座長公演の常連で、山田五十鈴主演「たぬき」にも出演していた。のり平から学んだ演劇的な手法を落語に取り入れて、志ん朝落語を作り上げていった。春風亭小朝も、今はない新宿コマ劇場で座長公演を行ったことがある。

 最近では、立川志らくが劇団「下町ダニーローズ」を主宰し、脚本・演出も手掛け、定期的に公演を行っている。林家正蔵も若い頃に劇団「WAHAHA本舗」に入団しようと思ったほどで、昨年は小劇場のKAKUTA公演に客演で主演し、山田洋次監督が演出した音楽劇「マリウス」にも出演した。柳家花緑も「宝塚BOYS」「狸御殿」などに出演し、歌も歌っていた。春風亭昇太も「笑点」司会などで多忙の身だが、三宅裕司が座長の熱海五郎一座のメンバーとして、6月の新橋演舞場公演に出演する。

 舞台好きが多い落語界でも、断トツで劇場出現率が高いのが柳家喬太郎だろう。人気落語家のオーラを消して、小さな劇場の狭い席に座っている姿をよく見かけた。自身も、鈴木聡作・演出「斎藤幸子」や、稲垣吾郎主演「ぼっちゃま」に出演していた。そして、今、こまつ座公演「たいこどんどん」にたいこもちの桃八役で主演している。

 桃八はこれまで佐藤B作、中村梅雀、古田新太が演じている大役だが、喬太郎は大健闘だった。膨大なせりふを見事に自分のものにしているし、初日のかつらが脱げてしまうハプニングにも落ち着いて、笑いに変換。上半身はだかの体も出し惜しみをしなかった。相手役の窪塚俊介が病気で初日直前に降板、急きょ代役に立った江端英久に息を合わせながら、演じきった。

 初日を終えた喬太郎は「『大変!』『辛い!』とか稽古中は言っていたけど、3時間15分という長い作品でありながら、こんなにもあっという間に終わるのかと感じてます。実は、冒頭のシーンが1番緊張するのですが、初日でお客様を前にすると、ふっと楽になった感じがした」。公演は20日までだが、喬太郎はけいこを含めると、1カ月以上、本業の落語から遠ざかっていた。喬太郎ファンには寂しい1カ月かもしれないが、この舞台で喬太郎は確実にステップアップしている。【林尚之】