コミカルからシリアスまで幅広い演技をこなす阿部サダヲが連続殺人鬼役に挑む。周囲から親しまれるパン店の主人の柔和そうな笑顔から一転、感情を排した目、虚無感が漂う目が、えたいの知れなさを増幅させる。中盤からラストにかけて何度もゾクッとした。

櫛木理宇氏の同名小説が原作。大学生の雅也(岡田健史)に1通の手紙が届く。10代後半の少年少女らを狙い、24件の殺人容疑で逮捕、9件で起訴され、死刑判決を受けている阿部演じる榛村(はいむら)からだった。雅也は中学の頃、榛村が地元で開いていたパン店に通っていた。手紙には「罪は認めるが、1件だけは違う」と書かれていた。雅也が調べ始めると、残酷な事件と、自分の出自に迫る事実が浮かび上がる。

榛村がターゲットと信頼関係を築くときの目は知的で穏やか。拷問、殺害シーンは、目を背けたくなるが、人間の底に秘める残虐さを阿部が目で表現している。監督は「孤狼の血」の白石和彌監督。ダブル主演の岡田が自尊心に欠ける孤独な青年を好演している。拘置所の面会室での2人の心理戦は緊張感が途切れることがなく、サスペンスとしても見ごたえ十分だ。

【松浦隆司】(このコラムの更新は毎週日曜日です)