愛知県瀬戸市の「せと銀座通り商店街」の空き店舗のシャッターに張り付けられるジャンボ将棋盤、手作りの駒を持つ飯島加奈さん(撮影・松浦隆司)
愛知県瀬戸市の「せと銀座通り商店街」の空き店舗のシャッターに張り付けられるジャンボ将棋盤、手作りの駒を持つ飯島加奈さん(撮影・松浦隆司)

将棋の藤井聡太2冠(棋聖・王位=18)の出身地・愛知県瀬戸市にある「せと銀座通り商店街」の「名物・ジャンボ将棋盤」が「最後の対局」を迎えました。“藤井効果”で商店街に人の流れが戻り、ジャンボ将棋盤のある空き店舗の出店者が決まったためです。

藤井2冠(当時四段)がデビュー30連勝を懸けた17年7月の対局から閉店した店のシャッターに手作りのジャンボ将棋盤を張り付け、アマチュア棋士が対局の様子を解説する「大盤解説」がスタート。これまで数局を除き、「大盤解説」してきましたが、20日に東京・千駄ケ谷の将棋会館で行われた第70期王将戦挑戦者決定リーグ戦、木村一基九段との対局が最後となり、地元の人たちが見守りました。

発案した同商店街で洋品店を営む飯島加奈さん(39)はスタート当初について「商店街を挙げて応援し、藤井さんを少しでも後押しできたらとの思いからでした。それと藤井さんの地元で、みんなが将棋を身近に感じてほしかった」と振り返ります。

ただ全国の地方都市にある商店街と同様に「せと銀座通り商店街」もシャッターが開いていない店舗が数多くありました。飯島さんらは「とにかく続けよう」と踏み出しました。

“藤井フィーバー”は社会現象化しましたが、将棋ブームは一過性に終わる可能性もありました。ところが、この約3年4カ月、「瀬戸の星」は着実に実力をつけ、快進撃を続けてきました。17歳11カ月で最年少で初タイトル、18歳1カ月で最年少2冠を獲得しました。数々の歴史的快挙を達成したとき、地元の人から熱視線を浴び続けたのがジャンボ将棋盤でした。

「たいへんな日もあったけど、すごくいい思い出もできた。対局のドラマもあり、人と人の出会いの場にもなりました。ちょっと寂しさはありますね」。飯島さんは「でも……」と続けます。

「商店街の空き店舗のシャッターが上がり、営業店舗が増えることは商店街のみんなが望んでいることです」。同商店街には新規出店も増えています。

「藤井さんのムーブメントはすごく大きかった。自然とみんなが動かされていった。ここ数年で人の流れができ、いい状態の商店街になっているのを感じています」

ジャンボ将棋盤の“消滅危機”に商店街の店主らからは「なくしてしまうのは絶対にダメだよ。ジャンボ将棋盤がないのはちょっと考えられない」との声が上がっています。別の場所で2代目・ジャンボ将棋盤の設置も検討されています。 偶然にもジャンボ将棋盤の“フィナーレ”は藤井2冠の史上最年少での通算200勝達成の対局と重なりました。最後まで“持っている”将棋盤でした。記念の200勝の投了図は11月末まではシャッターに残すそうです。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)