新型コロナウイルスのワクチン接種に便乗した「ワクチン詐欺」が各地で相次いでいます。人の心理状態をつく特殊詐欺の新しい手口です。兵庫県では「優先接種」を誘い文句に10万円をだまし取ろうとした「未遂事件」が報告されていますが、特殊詐欺グループの真の狙いは一度にもっと高額の現金をだまし取ることです。ワクチン接種の混乱が起きれば、さらに巧妙な手口が出てくることに警戒を強めています。

「2月からワクチン接種が始まる。高齢者は先に接種できる。接種に10万円がかかるので振り込んでほしい」

兵庫県警生活安全企画課によると、同県芦屋市の80歳代女性宅に1月6日午後2時ごろ、保健所職員を名乗る男からワクチン接種に関する不審な電話がかかってきました。女性が「家族に相談する」と伝えると電話は切れました。不審に思った女性は芦屋署に通報。関西では、おそらく初めての「ワクチン詐欺」が確認された事案でした。

ワクチン接種の「優先接種」を誘い文句にした不審電話は、各地で確認されています。長野県では大手製薬会社を名乗る男から「いま、事前申し込みをすれば、1月中に先行してワクチンを打つことができる。ワクチン製造会社と連携している」などと不審な電話があったことが報告されています。

芦屋市の事案では女性が「ワクチン詐欺」を見破ったため、被害はありませんでしたが、兵庫県警生活安全企画課の担当者は「ATM(現金自動受払機)のコーナーに誘導し、現金をだまし取ろうとしたことが考えられる」とみています。

ATMに誘導し、だまし取る特殊詐欺の手口の1つとして、医療費、税金などの「還付金詐欺」などがあります。市役所の職員などを名乗り、医療費、税金などの「還付金があるので手続きしてください」などと言ってATMに誘導し、ATMを操作させ、犯人の口座に現金を送金させる手口です。

被害者は、自分の口座に還付金が振り込まれると信じ、相手の指示に従い、ATMを操作した結果、100万円近い被害を受けた方もいます。

新型コロナウイルス感染拡大防止の切り札とされるワクチン接種は、国内では早ければ2月下旬から医療従事者への先行接種が始まる見通しです。一方、米製薬大手ファイザー製のワクチンは超低温での保管が必要なこと、集団接種の場所の確保、ワクチン供給が間に合うかなど、混乱も心配されています。

ワクチン接種を受ける際の費用は、全額公費で行うため無料ですが、ワクチン接種の混乱が起きれば、「優先接種」など人の心理をつく巧妙な手口が出てくることも予想されます。

兵庫県警生活安全企画課の担当者は防犯のポイントとして「保健所が個人に対して、新型コロナウイルスのワクチン接種をあっせんすることは絶対にありません」と注意を呼び掛けます。

さらに特殊詐欺の「アポ電」にも注意が必要だといいます。「アポ電」はアポイントメント(予約)電話の略語です。犯行に先立ち、警察官、保健所、銀行員などを名乗り、個人情報の入手など目的とする「予兆電話」で「脈があるかどうか、必ず電話をしてきます」と同課の担当者。不審な電話を受けたら「1人であわてて対応せず、家族か警察に相談してください。電話でお金の話が出たら要注意です」と警鐘を鳴らします。同県警は、特殊詐欺の「アポ電」の多い地域に捜査員を配置し警戒を強めています。

「自分がだまされるはずがない」-。そんな自信が特殊詐欺のわなに陥りやすい状況をつくりだします。過信は禁物です。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)