お笑い芸人の劇団ひとり(44)が先日、大阪市内で、監督・脚本を務めた映画「浅草キッド」(12月9日からNetflixで全世界独占配信)の取材会を開きました。尊敬するビートたけしの同名自叙伝を映画化した作品へのあふれる思いを語りました。

日本を代表する芸人、コメディアンとして40年以上お笑い界の頂点に君臨する「ビートたけし」、映画監督として世界的な評価を受ける「北野武監督」。どちらの「タケシ」の影響が大きいのだろうか? 

「圧倒的に芸人ですね。子どものころからずっと見て、憧れていた。結局、同じ職業についた。それでいて、その憧れていた人の半自伝的な映画を撮らせてもらった。たけしさんありきの人生だなと思いますね」

本作の脚本を書き始めた7年前。初の監督作品「青天の霹靂」(14年)の撮影終了後、「すぐに脚本を書き始めた」。映画、たけしへの思いは抑えることができませんでした。

若き日のたけしは、大学にも通わなくなり、ストリップ劇場「浅草フランス座」のエレベーターボーイとして働き始めます。そこで、誰もが認める実力を持ちながらテレビや映画への出演を拒み続けた「伝説の浅草芸人」、深見千三郎に弟子入りします。

師匠・深見の映像資料などが、ほとんどなかったため、「たけしさんに直接1対1で取材させてもらいました。深見師匠の人となりを細かく聞きました」。取材でたけしは「『とにかく深見師匠は照れ屋だったね~』としきりにおしゃっていた。『全部が逆なんだよ。うれしかったら、怒るし、悲しかったらおどけるし、自分の気持ちを全部、逆で表現するんだよな、あの人は』としきりにおしゃっていました」。

たけし役を柳楽優弥、深見を大泉洋が演じます。柳楽の起用について「天才がゆえの孤独と、ときに感じる狂気を併せ持っている。同じにおいがした」。劇中のエレベーターボーイ時代のたけしからは、その行き詰まった感が、ひりひり伝わってきます。

エンドロールでは桑田佳祐の「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」が流れます。

クラインクインの前に桑田にオファーしましたが、主題歌は「浅草キッド」だから、提供できる主題歌はないと断られたといいます。

ところが、クランクアップ直前にうれしい知らせがありました。「桑田さんサイドのほうから『出来た曲が浅草キッドに合いそうだ』という話があった。本編映像を桑田さんに見てもらったら『これだったら合いそうだね』と楽曲の提供が決まった」そうです。

撮影中は監督として“悶絶”を経験したといいます。クランクイン初日に新型コロナウイルスによる2回目の緊急事態宣言が発出されました。

「作品自体が飛んだというのを耳にするんですよ。あそこの現場も飛んだ、いや~、これどうなんだろう……、撮影できるのかなと不安な毎日でしたね」

もしスタッフ、出演者が新型コロナウイルスに感染すれば、撮影は中止。出演者は売れっ子なので「撮影が2週間でも、止まってしまったら、もう撮りきれない。そうすると、演者は他の作品に入ってしまう。再集結するのは数年後……。ヒヤヒヤしましたけど、爆発的に感染拡大が続いていたが奇跡的に演者、スタッフから感染が出なかった」。

感染対策の徹底もありましたが、運もありました。崖っぷちの撮影でも「手応えがあるまではOKは出さず、編集もやめなかった」。完成作をたけしはまだ見ていないといい、「(感想が)ちょっと楽しみです」。劇団ひとり監督の自信作です。“師匠”からの「バカヤロウ」はないはずです。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)