名曲やヒット曲の秘話を紹介する連載「歌っていいな」の第28回は、1974年(昭49)に発売された、かぐや姫のヒット曲「妹」です。「神田川」の大ヒットで自分たちに向けられた固定イメージとの葛藤から生まれた曲でした。南こうせつが、当時の思いを明かします。

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「妹」は「神田川」「赤ちょうちん」と並び、かぐや姫の代表曲に挙げられる。生活感漂う3曲で、かぐや姫は「四畳半フォーク」の旗手となった。しかしメンバーの南こうせつは「僕らの歌はそんなどっぷりとしたものではないんです」と一方的なイメージをやんわりと否定する。「妹」は固定化されていく自分たちのイメージへの反発から生まれたという。

実はかぐや姫の歌には、アップテンポで、ポップな曲も多い。「神田川」のミリオンヒットの余波に、メンバーは次第に息苦しさを感じるようになっていた。こうせつは「僕らはもっと違う、明るい音楽もやりたかった。でも、いろいろな流れには逆らえなかった」と振り返る。

こうせつが言う「いろいろな流れ」。映画界も、その1つだった。「神田川」が社会的なヒットとなったことで、すぐさま映画会社が飛びついた。大手2社が争奪戦を繰り広げ、東宝が映画化権を獲得。出目昌伸監督の演出、主演の草刈正雄、関根恵子が70年代の愛を新鮮に演じた。

さらに、まだ歌ができあがっていないのに、次とその次の曲が発表前の段階で日活で映画化されることが決まった。それが、青春歌謡映画と銘打たれた「赤ちょうちん」、そして「妹」だった。藤田敏八監督がメガホンを取り、秋吉久美子が主演した。

こうせつは「妹」の詞を喜多條忠さんから渡され、たった1日でメロディーを書き上げた。しかも「妹」には、今までの2作とは違った仕掛けをした。「神田川」と「赤ちょうちん」はマイナー(短調、暗い感じの曲調)で始まるのに対し、「妹」はメジャーコード(長調、明るい感じの曲調)を用いた。さらに「妹」はイントロがなく、いきなり歌から始まった。こうせつは「悲しい曲がマイナーからということはない。イントロなしはビートルズもよく使っていたし、この手法でやってみたかった。何かグループのイメージばかりが先行してね。どこかに、何かに反発して音楽をつくっていたのかも知れません」と振り返った。

幸いにもその反発が「妹」を新鮮に感じさせたこともあり、ヒットに結び付いた。こうせつは「別に僕らは金もうけしたかったわけじゃない。ただ、いいハーモニーで、いいエンターテインメントをやりたかった。それだけなんです」と言う。【特別取材班】

※この記事は97年12月17日付の日刊スポーツに掲載されたものです。一部、加筆修正しました。連載「歌っていいな」は毎週日曜日に配信しています。