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下坂美織と囲碁しちゃおっ

姫の世界 美織ワールド

神様との対局に体が震え出しました

会場です。山に囲まれた静かなところで、対局にはうってつけの環境です
会場です。山に囲まれた静かなところで、対局にはうってつけの環境です

<第10回(最終回)・世界戦ゼイ先生に勝つチャンス>

 「身体中がガタガタと震え始めた。そして頭が真っ白になった」

 一昨年、私は初めて日本代表として、女流棋戦の世界戦に出場しました。その2回戦で対戦したお相手が、中国代表のゼイ廼偉9段。ゼイ先生は、長らく女流囲碁界のチャンピオンであり続け、さらには国内戦での一般棋戦でタイトルを獲得したこともある方です。私からすると神様のような方。そんな先生との対局で、冒頭のような奇妙な状態に陥ったわけです。

 それもそのはず、必死に打っているうちに私の方がはっきりと形勢が良くなったのですから!

 (まさか、これは勝てるかもしれない…)

 そんなことを考えた瞬間、体が震え出しました。いわゆる「武者震い」でしょうか。その途端、私の頭は思考停止状態に陥りました。局面は終盤戦、残すは少しのヨセ。冷静になれば勝てる。なのに余計な考えばかりが頭に浮かんできました。身震いもおさまりません。

 当然ながら、そんな状況では今度はこちらがミスを連発します。必要のない頑張りをしてしまい、損を重ね、ついには逆転を許してしまったときでした。その瞬間、面白いほどにピタッと震えが止まりました。

 結果は2目半負け。もちろん悔しかった。何回も勝つチャンスはあったと思うので。しかしそれと同時に、プレッシャーからも解放されたという安心感もありました。体感していた以上の圧がかかっていたのかもしれません。盤を離れて日本チームのところへ行くと、みんなが温かい言葉をかけてくれました。

 「お疲れさま。よく頑張ったよ」

 その途端、目頭が熱くなった。不覚にも涙があふれてしまいました。

 世界戦には独特の緊張感が漂っていました。そこで普段の力を出すということがいかに難しいか、少しだけわかったような気がします。本当に強い人は、どんな時でも自分の力を出せる人なのかもしれません。私は技術面でも精神面でもまだまだ。ただ、このような体験は非常にプラスになりました。雲の上の存在であるゼイ廼偉先生との1局は、ずっと忘れられないでしょう。

 私はまだまだ弱い。もっと強くなれるよう精進するとともに、お世話になっている囲碁界にどのように恩返しができるのかを模索中です。このコラムが、囲碁に興味を持っていただけたり、楽しんでいただけるキッカケになれば幸いです。ご愛読いただき誠にありがとうございました。(おわり)

楽しかった「ここだけ」のプライベートコラム

 <担当者から> 下坂美織――。NHK杯の司会をされている以前からその名前と実力は存じ上げていました。「クールで、とにかく強い女」というイメージでした。

 この囲碁サイトの最初の先生として万波佳奈4段にご登場いただき、第7週を終えたころ「次の先生を誰にお願いしましょうか」と、万波さんに相談したのです。

 「下坂美織ちゃんはどうかしら? でも、彼女いまとっても忙しいから大丈夫かな~」

 週1回ごと4種類の原稿と囲碁図、写真を出稿する煩雑さをご存じの万波さんには、第一線で活躍する棋士を安易に推薦するのは難しかったのかもしれません。私としても下坂さんに受けていただけるのがベストと思っていましたので、万波さんにも協力をいただき、正式に日本棋院に依頼しました。

 3日後、下坂さんから「OK」の返事をいただきました。日本棋院でお会いしましょうとなったのですが、高校、大学と圧倒的な強さを誇り、プロ入り後も活躍されている棋士とお話しすることに正直緊張しました。

 「こんにちは。下坂です。初めまして。わざわざ棋院までおいでいただきありがとうございます。よろしくお願いします」。想像とはまるっきり違って、笑顔を絶やさず、優しい口調で話す聡明なお嬢さまだったのです。

 タイトルカット用の写真撮影にも快く「ハイ」。大盤の横でポーズとられたり、碁盤に向かって打ってくれたりと…「ハ~イ、笑ってくださ~い」「先ほどからず~っと笑っていますよ~」。そんなやりとりと打ち合わせを約2時間。この2時間で「下坂美織と囲碁しちゃおっ」も成功すると確信したのです。

 自身初のプライベートコラムにも積極的に取り組んでいただき、下坂さんの知られざる魅力に触れることが出来ました。直筆のサイン色紙30枚をプレゼント用にお願いしたときも、「筆がいいのでは」と書道教室に通われ、書いてくださいました。「美織ワールド」「美織姫に聞いちゃった」。美織ファンもきっと喜んでくれたことでしょう。

 今回第10週で終了になりますが、長い間ご愛読くださいましたユーザーの皆さまに感謝いたしますとともに、下坂さんが近い将来、棋聖、本因坊、名人のタイトルを獲得されることをファンの皆さまとお待ちしています。ありがとうございました。

[2014年2月25日10時34分]

『週刊碁』という囲碁の新聞で取り上げられました。うーん、残念
『週刊碁』という囲碁の新聞で取り上げられました。うーん、残念








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