◆さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~(日)

 「パリ、テキサス」(84年)は、ドイツを代表するビム・ベンダース監督の傑作だ。外国人の目がとらえたテキサスの小都市は、余分な細部をそぎ落とされ、いかにも米南部的な空気がむしろ分かりやすい。背景がシンプルだから人物像も明解に浮かび上がる。

 台湾の新人、チアン・ショウチョン監督が奥能登を舞台に撮った今作も、そんな利点が生かされている。

 幼時に父と別れた地で、コーヒー店を開いた気丈夫(永作博美)とキャバクラしか生計のすべのない2児のシングルマザー(佐々木希)。さいはての地で隣り合わせた2人が反発し、助け合い、再生していく。

 日本映画ならあるはずの小道具が間引かれているから、コーヒー店にも子どもたちが暮らす部屋にも不思議な「日本の異国情緒」が漂う。決して無理をしない永作の自然体が際立つ。頑張り屋だが、限界もある。ほどよい笑顔と困った顔にリアリティーがある。

 後半の佐々木はテレビドラマ同様に純心を秘めた女性が本人そのままに見える。が、前半のすさみ方に驚く。永作の影響か。女優としての可能性を実感させる。外国人監督の緊張感がいい方に振れたのだろう。【相原斎】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)