門脇麦(25)は、現代を生きる女子を伸びやかに、時に生々しく演じる。大小問わず、さまざまな作品への出演が途絶えることのない門脇は、公開中の主演映画「世界は今日から君のもの」(尾崎将也監督)でオタクで引きこもりの女子を演じた。門脇がニッカンスポーツ・コムの単独取材に応じ、作品と尾崎監督について、現代を生きる女子を演じることへの思い、映画へのこだわり、女優を演じる理由など存分に語った。

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 「世界は-」で門脇が演じた真実は、引きこもりのオタク女子。父英輔(マキタスポーツ)の勧めでゲーム会社のバイトを始め、そこでディレクター矢部(三浦貴大)が修整に苦心していた新キャラのデザインを偶然に拾い、手直しした。そのことで、5年間の引きこもり生活で磨いた画の才能を認められ、人生の新たな扉が開いていく物語だ。

 門脇演じる真実は一歩、歩く姿からコミカルだが、そこにはリアリティーがある。本番までに徹底した下調べとリハーサルを重ねる姿勢が産んだたまものだ。

 門脇 あれは監督、そのままです。「ひざは伸ばし気味で歩いてください」、「もう少し猫背で」とか、歩き方とか立ち方とか結構、細かい指示があり、言われたとおりやったら、自分の動きが尾崎さんになっていました(笑い)私、バレエをやっていたせいか、わりと肉体先行、体先行で役の感情は、何となくこんな感じかな…って、いつもなるんですけど、割とすぐ、サラッと、しっくりきましたね。(ひざを伸ばし気味で歩いたり、猫背なのは)尾崎さんの歩き方だし姿勢なんです。今回、監督はご自身を投影しているので、女版尾崎さんだと思ってやっていた。真実は尾崎さんの分身です。

 -尾崎監督に主人公・真実の要素がある?

 門脇 基本的に、とても無口な方だし、たまにポツポツしゃべる。アフレコをした後に、マネジャーさんと尾崎さんと途中まで電車で帰ったんですけど、15~20分くらいの間、尾崎さんが発した言葉は3言くらい。私、わりと必死に笑いを探して、間をつなぐみたいな時間だったんですけど、尾崎さんが後で「すごい楽しい時間だった」って言っていたと人づてに聞いて。しゃべってないから楽しくないかな、と心配になっちゃったけれど、言葉にならないだけで彼の頭の中では普通に楽しいんでしょうね。その瞬間に、さらにいとおしい人だなぁと思って…胸がギュッとなったんです。真実も、人からは分かりづらいかもしれないけれど、自分の世界があって、それを必死に守ろうとしていて…でも「開いてみなよ」という外からの声に、一歩踏み出す。女の子が一歩、踏み出す映画って、いっぱいあると思うんですけど、分かりにくい一歩というか、もしかしたら半歩くらいかも知れない。そこの加減が、すごくすてきで、物語じゃなくて本当にある話に見えるんです。尾崎さんの本の力ですね。

 尾崎監督の分身だと考えた真実を演じるにあたり譲れないこだわりがあった。

 門脇 (真実は)かわいいですよね。小さいものを自分の中で、大事に大事にしていて、ツンとやったら壊れちゃいそうで…。だから、暗い子にはしたくなくて。私、カテゴライズするのが大嫌い。「引きこもり」、「オタク」は、宣伝のために必要なワードだから使っていると思うんですけど、そこにしたくなくて。好きなものにいつも囲まれていて、自分の好きなものを大切にしていて、大切なものが何か分かっていて…それって、すごく幸せで、強いことだと思う。暗い女の子にしない、というのは、やりながらすごく気を付けていたところかも知れません。みんなが手を差し伸べるような子にしたかった。尾崎さんの(台本の)中で、完璧なリアリティー…自分自身があったと思いますね。最後のシーンでセミナーを開いて「私は、まだ引きこもりです」っていうセリフがありましたけど、あそこのシーンであれを言うのは、尾崎さんじゃないと書けなかった。もしかしたら彼女は、おそらくその言葉を初めて言った。誰にも言ったことがなかったと思いますし、あそこで、あれを書くのは本当に絶妙というか…やっぱり、尾崎さん自身の話だから、こんなにもリアリティーがあるんだと思いますね。

 次回は、門脇自身、演じることが多いと語る、複雑な役どころの女性を演じる裏にある強い思いを明かした。【村上幸将】