歌舞伎俳優、人間国宝の坂田藤十郎(さかた・とうじゅうろう)さん(本名・林宏太郎=はやし・こうたろう)が老衰のため12日午前10時42分、都内の病院で死去したことが14日、分かった。88歳。妻は、女優で、国交相、参議院議長などを歴任した扇千景。妹は女優中村玉緒。

藤十郎さんは今年1月、大阪松竹座での「寿初春大歌舞伎」を腰痛のため休演した。最後の舞台は、昨年11月終わりから12月26日に行われた、京都・南座「吉例顔見世興行」での「金閣寺」だった。同公演でも腰の痛みを抱えながらの出演だったという。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、3月以降歌舞伎興行が相次いで中止になった。8月から東京・歌舞伎座で公演が再開されたが、舞台復帰はかなわなかった。

上方歌舞伎の象徴であり、日本俳優協会の会長。名実ともに歌舞伎界のトップと言える存在だった。

いくつになっても変わらぬ上品さと優美さを持っていた。21歳で初めて務めた近松門左衛門作の「曽根崎心中」のヒロインお初を、80歳を超えてもみずみずしく演じ、驚嘆させた。15年、福岡・博多座でお初役1400回を達成した時は、歌舞伎では異例のカーテンコールが起こった。藤十郎さんは「お初が私の歌舞伎人生を変えてくれました。1400回演じていても、毎回毎回、お初を新しく生きています」と話した。

娘役や、「伽羅先代萩」の政岡など女形の大役と言われる役、男性を演じる立役など、幅広い役柄で数々の当たり役があった。

私生活では70歳の時、19歳の舞妓(まいこ)との浮気騒動があったが、藤十郎さんは会見で「一生青春。70歳なのにこんなふうに報じられてうれしい。世の男性も頑張って」とエールを送った。扇も動じることなく、余裕のあるおしどり夫婦ぶりが話題になった。

 

◆坂田藤十郎(さかた・とうじゅうろう)1931年(昭6)12月31日、京都府生まれ。屋号は山城屋。2代目中村鴈治郎の長男。41年、大阪・角座「山姥」の金時で2代目中村扇雀を襲名し初舞台。53年、新橋演舞場「曽根崎心中」のお初を初演し“扇雀ブーム”を起こす。90年11月、歌舞伎座「吉田屋」「河庄」で3代目鴈治郎を襲名。05年12月、京都南座「夕霧名残の正月」などで4代目坂田藤十郎を襲名。94年に人間国宝に認定。03年、文化功労者、09年文化勲章。58年に扇千景と結婚。長男は4代目中村鴈治郎、次男は3代目中村扇雀。孫は中村壱太郎、中村虎之介。