現場記者としてNHK紅白歌合戦を20年ぶりに取材した。これまでも、デスク業務のかたわら、紅白の現場に顔を出したことはあったが、本格的な現場取材はかなり久々だ。かなり前から取材を楽しみにしていたのだが、今回は、コロナ禍がすべての環境を変えてしまった。

出場歌手が歌を披露し、さまざまなパフォーマンスを繰りひろげているという点で、放送としては、それほど違和感はない。ただ、イベントとしては大きく変わってしまった。

紅白歌合戦は見方によっては単なる音楽番組だ。ただ、歴史があり、過去には今では信じられない視聴率を稼ぐ国民的番組という認識が世の中にあり、そして、何よりも公共放送がつくる番組ということで、ホールに全員が集まり、生歌で勝負するという、出場する歌手にはそれなりにステータスを感じるイベントであったことはたしかだ。

そのため、昭和の時代には、あくまでもイベントなので、中継で出場するのはなしにしようと、スタッフ内で決めたこともあった。イベントとして、中継が入ると館内の温度が下がり、歌合戦というイベントとしては不適切だというジャッジだったように思う。とはいえ、音楽番組としては、どの歌手がどこで歌おうが、視聴者にはそれほど違和感はない。むしろ、海外からの中継とか、中島みゆきが黒部ダムから歌ったとか、中継が意味をもつようにもなった。

ところが、そんな議論は無意味だというように、今年は、無観客での開催となった。歌手は声援もなく、歌うことになった。歌うステージも複数あり、コロナ禍の前に、一体感などというものは吹き飛んでしまった。

世帯視聴率は関東地区で40・3%(ビデオリサーチ調べ)と2年ぶりに、40%台を回復した。数字的には、同局幹部はホッとしているとは思う。ただ、ステイホームが呼び掛けられ、公共交通機関の終夜運転が止まり初詣への自粛が呼びかけられ、寒波が到来するなど、総世帯視聴率(HUT)がアップするのは、事前に分かっており、数字としては想定内だったのかと思う。

歌手がホールに一堂に会し、生で歌を競い合うというのがNHK紅白歌合戦のコンセプトだ。そうではなく、歌をじっくりと聴かせるというのなら、SONGSスペシャルでもいいわけだ。さらにいえば、事前収録した映像を放送するのが許されるとしたら、最高のパフォーマンスを放送することもできる。個人的には、ホールで最高の盛り上がりのなか大団円を迎え、静寂な「ゆく年くる年」で大みそかだと気づく、長年の習慣を守ってほしいとは思う。【竹村章】