大越健介氏(60)がメインキャスターを務める、テレビ朝日系「報道ステーション」が4日、船出した。6月30日付でNHKを退職するまで、政治記者としてキャリアを重ねてきた同氏の“初登板”の日に臨時国会が召集され、岸田文雄氏が第100代総理大臣に就任し、新内閣が発足。大越氏自身、番組公式サイトのブログ「大越健介の報ステ後記」のタイトルを「持っている人」としたように、ジャストタイミングでのスタートと見た人は少なくないだろうし、期待も大きかったのではないか?

放送に先立つ9月17日、テレビ朝日が開催した、大越氏のオンライン懇親会に参加し、同氏に幾つか質問を投げかけた。そのうちの1つが、放送初回の4日に臨時国会召集と新内閣発足の可能性が取りざたされているが、政局をどう伝えたいか? ということだった。同氏は「10月4日に総理大臣指名選挙が行われているか、まだ分からないですけど」とした上で「政局は、ともすると政治記者的観点から言うと、数合わせ的な論理になる。票読み、駆け引きの世界も政治取材の醍醐味(だいごみ)ではあるんですけど(視聴者の)皆さんに、地球をどっちの方に持って行きたいですか? という、大きなものを問いたい」と語った。

また、大越氏は「ずっと長い間、記者をして報道の現場で仕事をしてきた。(中略)この1年ほど、私は主にNHKスペシャル、BS1スペシャルという大型番組の取材、リポート、制作に当たってきた。非常に大きな勉強になった一方で、年齢も60歳に差しかかるに当たって、もう1度、日々のニュース報道もやってみたいという思いを、ずっと抱いてきた」とも語った。その言葉を聞き、現場に出る機会を可能な限りつくるのかと問いかけた。

大越氏は「スタジオは、現場である。ニュースを回す場所だけではなくて、政治家でも、どなたかでもリモートでも来て頂く形でもいいですし、そこが生の取材の現場であるというところを見せるのも番組の力」と語った。その上で「自分自身が100分の番組を作るわけにはいかないでしょうけれども、いろいろなところに出向きたい」と、柳井隆史チーフプロデューサー(CP)に伝えたことも明らかにした。同CPは「これまでの豊富な取材経験を、ぜひ生かして頂くべく、そういう機会をつくっていきたいと考えております」と現場に出る機会をつくると明言した。

加えて、大越氏には、NHK退局前の大きな仕事となった、読売新聞グループのトップ、渡辺恒雄氏への独占インタビューを2回にわたって特集した「独占告白 渡辺恒雄~戦後政治はこうして作られた」のような大型インタビュー企画、世界各国をめぐりながら各地の問題を掘り下げ、リポートする「激動の世界をゆく」のような大型特番を、テレビ朝日でも挑戦したいか、とも尋ねた。「皆さんに地球をどっちの方に持って行きたいですかという、大きなものを問いたい」という、同氏の思いを実現するには、日々の報道だけでは足りないだろうと思ったからだ。同氏は「それは、僕はよく分からない」と言い、柳井CPに回答を委ねた。同CPも「まだ、そういったところは決まっていません。まずは『報道ステーション』で、しっかりとご活躍頂きたいと思っております」と語るにとどめた。

一連の質問を投げかけたのは、大越氏が「報道ステーション」と民放という新たなフィールドで、どういうことをしたいか、自分の色をどう出したいかを知りたかったからだ。そして4日、番組を視聴すると、大越氏は朝から臨時国会を取材していた。「大越カメラ」を手に、岸田内閣で自民党総務会長に抜てきされた福田達夫氏、木原誠二官房副長官を相次いで直撃。その足で、NHKで同期だった安住淳衆院議員が国対委員長を務める、立憲民主党の代議士会まで取材した。

さらに放送中、首相官邸前に立つ官邸キャップの山本志門記者と生対談。岸田氏が14日に衆院を解散し、19日告示、31日投開票と衆院選を前倒ししたことや、同氏が若手議員を入閣させた思惑を語り合う2人は、キャスター対記者というより、対等の立場で議論を交わす政治記者同士のにおいが漂った。その一方で、同じくこの日から番組に加わった2年目の渡辺瑠海アナウンサー(24)には、政治のニュースや岸田内閣について同世代はどう思っているか? と尋ねた。踏み込んだ報道を期待する番組のヘビーユーザーと、より広い一般、ライトな視聴者層の、両方に届くような番組回しだと感じた。

番組の最後に、大越氏は「こういう日に巡り合わせたことは、何か意味していることがあるのかなと考えたんですが…きっと、ないですね」と語った。その上で、こう続けた。

「ただ、とても大事な日だと私は思います。自民党総裁選挙でいろいろな論戦が交わされましたけど、報道する側は、どの人とどの人の駆け引き、つながりとか政治の構造を説明することを一生懸命やったと思いますが…語られるべきは将来です地球が悲鳴を上げていて、気候危機と言われている環境問題の中で、日本がどういう立ち位置で世界とともに歩んでいくか、どんな国家像を描くのか…これから大事な政治の季節に入る」

懇親会で記者が尋ねた、今後、やってみたいことと、ほぼ同趣旨のことを番組の最後で口にした。

初回を見終えて、大越氏は取材対象と視聴者を真っすぐに見詰め、質問、発信ともに非常に丁寧に行う記者、取材者、キャスターであると、改めて感じた。同氏が出演した特番、企画を幾つも見てきたが、政治記者に加え母校東大の大先輩である渡辺氏のような超大物を前にしても、毅然(きぜん)としたスタンスで取材、質問しつつも、非常に丁寧に言葉を紡ぎ、懐にソフトに飛び込んでいく。その取材手法、インタビューは、畑は違うが同じ取材、報道に関わる人間として学ぶところが非常に多い。徹底した現場主義も含め、そうした自身のスタンスを貫こうという姿勢は「報ステ」初回からも感じられた。

いま一度、懇親会を振り返ってみても、大越氏との言葉のキャッチボールは、語弊があるかも知れないが本当に楽しかった。いつの日か、同氏と、じっくりと腰を据えて話をしてみたい。【村上幸将】