15歳で歌手デビューし、今年で50周年の節目を迎えた石川さゆり(64)。「津軽海峡・冬景色」「天城越え」など歌謡史に輝く名曲をお茶の間に届けて半世紀。人生を歌にささげ、常に向上心を忘れない歌謡界のトップランナーだ。

29日の紙面「日曜日のヒロイン」に掲載できなかったアナザーストーリー(一部重複)を全7回に分けてお届けする。【取材・構成=松本久】

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やるからには中途半端なことはイヤ、自分で納得できないものをお客さまに見せたくないという強い思いを持っている。

06年に舞台「長崎ぶらぶら節」で土俵入りを行った際は、元横綱の北の湖親方に稽古をつけてもらった。13年9月に明治座舞台「歌芝居 芝浜~おんなの心意気」で落語に初挑戦の時は立川志の輔が落語を指導。20年2月にアルバム「粋~Iki~」を発売する時は、なかにし礼さんの紹介で小唄を習った。他にも浪曲や義太夫など、さまざまな挑戦をしている。

「それはやはり、『芯』を自分の中にいれたいなっていう思いです。こんなもんかな、っていうものを皆さんにお届けするのは、自分の中ではいけないと思う。その道何十年という方々に、ちょいと教えてというのは失礼なことなんですけど、でも、その瞬間は思い切り食らいついて、自分の納得のいくところまで稽古をさせていただいて。講談も義太夫も浪曲もやらせていただいたし、いろんなことをやりながら、自分の歌とエンターテインメントの中に入れながら、そういうものを聞いたこともないという人たちが『日本っていいね』っていう、そんな入り口にしていただけたら。日本の文化の小さな入り口を皆さんにもご案内できるのかなって思うんですよね」。

表現者として、しっかり伝えたい。そこには歌い手としての使命感がある。

「それほど立派なものではないんですけど…。たかだか歌だよって言われてしまえばそれまでですが、歌がラジオやテレビから流れた時に、あー、自分はあの時にこんなことをしていたなとか、ふっと思い出していただける、一番生活に根付いているのが歌。だったら、自分の歌も忘れられないように、使命感というとおこがましく思うんですけど、自分にできることはやってみたいなという感じなんです」。

たかが歌、されど歌。石川はこれからもその魅力を伝え続ける。(終わり)

◆石川(いしかわ)さゆり 本名石川絹代。1958年(昭33)1月30日、熊本県生まれ。73年に「かくれんぼ」でアイドル歌手としてデビュー。77年に「津軽海峡・冬景色」が大ヒットし、同年に同曲で紅白歌合戦に初出場。昨年までに紅組最多の44回出場中。代表曲に「能登半島」「天城越え」「風の盆恋歌」など。19年に紫綬褒章を受章。血液型A。