第75回カンヌ映画祭授賞式が28日(日本時間29日)フランスで行われ、ある視点部門に出品された「PLAN 75」(6月17日公開)の早川千絵監督(45)に、新人監督賞「カメラ・ドール」のスペシャルメンションが授与された。スペシャルメンションとは、受賞作品に準ずる作品、監督に授与されるもの。97年に「萌(もえ)の朱雀(すざく)」でカメラドールを受賞した、河瀬直美監督(52)以来の同賞受賞こそならなかったが、世界の映画界にインパクトを与えた。

スペシャル・メンション受賞者として名前を呼ばれた早川監督は、緊張の面持ちで登壇すると「メルシーボークー(どうもありがとう)」と、フランス語で感謝の言葉を述べた。自身、初の長編映画が評価されたことに対し「誰にとっても最初の1本目というのは思入れが深く、特別なものだと思うのですが、私にとっての特別で大切な1本目の映画をカンヌに呼んでいただき、評価してくださって本当にありがとうございます」と感謝した。

「PLAN 75」は、初めて手掛けた韓国映画「ベイビー・ブローカー」がコンペティション部門に出品され、主演のソン・ガンホ(55)が男優賞を獲得した、是枝裕和監督(59)が初めて総合監修を務めたオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の1篇を、早川監督が新たに構築してオリジナル脚本を手掛けた。超高齢化社会に対応すべく、75歳以上が自ら生死を選択できる制度<プラン75>が施行され、その制度に大きく翻弄(ほんろう)される人々の姿を描いた。

キャストも一新し、倍賞千恵子(80)が9年ぶりに主演。劇中で倍賞は角谷ミチ、磯村勇斗(29)が市役所の<プラン 75>の申請窓口で働く岡部ヒロムを演じた。倍賞は、1961年(昭36)に映画「斑女」でデビューして以来、主演映画がカンヌ映画祭に出品されるのは初めて。カンヌ映画祭には、磯村が2泊4日の弾丸スケジュールで渡航し、海外の映画祭に初参加していた。

早川監督は檀上で、カンヌでの「PLAN 75」の反響も紹介。「『PLAN 75』という映画は今を生きる私たちに必要な映画である、と言ってくれた方がいました。その言葉が心に深く響いています」と万感の表情で語った。

日本人監督の作品が「ある視点」部門に出品されるのは、17年の黒沢清監督「散歩する侵略者」以来5年ぶり。日本人女性監督としては、15年に「あん」がオープニング作品に選ばれた河瀬直美監督以来2人目。近年の受賞は、黒沢監督が15年「岸辺の旅」で監督賞、16年には深田晃司監督が「淵に立つ」で審査員賞を、それぞれ受賞した。