福山雅治(53)の主演映画「沈黙のパレード」は、フジテレビ系「月9」枠で07年10月期に連続ドラマとしてスタートした「ガリレオ」の最新作だ。作家の東野圭吾氏原作の小説を、ドラマと映画セットで実写化した、プロジェクトの立ち上げから関わる“父”西谷弘監督(60)に15年の歩みと、これからを聞いた。【村上幸将】

「ガリレオ」は、1996年(平8)に「オール讀物」(文藝春秋)11月号に掲載された東野氏の短編小説「燃える」からスタート。「沈黙のパレード」公開2週間前の9月3日に新作「透明な螺旋」も刊行と、不定期ながら22年続く長期シリーズとなった。ドラマもスタートから15年が経過し、福山も8月に都内で行われたイベントで「始まった当初、まさか22年まで続くと思っておりませんでした」と語った。西谷監督は、どう思っているのか?

西谷監督 スタートが、ドラマと映画と2本立てのプロジェクトではあったのですけど…作品は一期一会。いつだって、これが最後という思いでやらないと出来ないので、シリーズ化になればいいという気持ちは一切、なかった。感謝しかないですね。原作は犯人側にまつわるヒューマンな話だけれど、1話完結の連ドラとしては逆に見づらいのかなと。そこで湯川目線にフィーチャーする形で作り替え、見やすさを作り、映画の方は原作にのっとって俯瞰(ふかん)するというか。

原作は帝都大准教授の湯川学と、湯川の大学時代の親友で警視庁捜査一課の刑事・草薙俊平がバディを組むが、実写化の段階で女性のバディを提案。東野氏も自分がキャラクターを作り、小説で先に登場させたらという条件で、06年の「オール讀物」掲載の「落下る」で草薙の後輩の刑事・内海薫を登場させた。

西谷監督 「月9枠」は今は、いろいろ(ジャンルが)ミックスされていますけど、当時はラブストーリーという枠だったので(女性バディを)非常に入れたいという…局の上層部(の意向)ですね。僕は、個人的には草薙が好きだったので、男のバディはいいなぁと思っていたんだけれども。もちろん、東野先生がネーミングを含めて、書かせて欲しいということだったので。先生の書いた中でも「目力の強い女性刑事」という文言もありましたし、柴咲コウさんならでは…彼女でなかったら、ここまで来なかった気がします。

ドラマはエンタメ、映画は人間ドラマを意識付けて作ってきたという。

西谷監督 両方ともエンターテインメントではあるんですけど、ドラマはコミック的アプローチで決めポーズやセリフ、推理の時に思い付いたら数式を、どこでも殴り書いてしまうような、キャッチーな演出は意識しました。逆に映画は小説的アプローチ…人間ドラマで切っていこうという、すみ分けをした感じです。

東野氏は、書いている湯川のイメージが福山になってしまうと語る。9月16日に都内で行われた初日舞台あいさつにも「もはやどちらでもいいんじゃないかと思うくらい私の中で二人は同化しております」とコメントを寄せた。原作とは幸せな関係で結ばれている。

西谷監督 読者の方も湯川は福山さん、内海は柴咲さん、草薙は北村さんの顔を浮かべながら読んでいるという話を、いっぱい聞いて。映像に携わる者として、こんなにありがたくて幸せなことはないなと。

08年のシリーズ初映画「容疑者Xの献身」は、福山にとって88年「ほんの5g」以来20年ぶりの映画出演かつ初主演作となった。13年の映画第2作「真夏の方程式」では俳優として初のアジアプロモーションも展開。「ガリレオシリーズ」は、福山が映画俳優として成長していった作品と言っても過言ではないだろう。

西谷監督 福山さんは、どちらかといったらアーティストだった。ドラマはコミック的、映画は小説的、というすみ分けと同じなんですけど、福山さんに湯川を植え込む時に、ドラマでは道端に数式を書き殴るとか、いろいろなことをやらせ、与えて、そこをよりどころに演じてもらった。映画の時には、それを全部、脱がしちゃう、裸にする。そういう小手先の部分を使わず、内面から表現してもらえれば…映画で俳優・福山雅治で着地すればいいと思って作っていましたね。見事、応えてくださった。

俳優も「ガリレオ」を見て育った世代が参加し始め、福山も「渡る世間になっていくしかない」と長期シリーズを見据える。西谷監督は、どう見ているのか。

西谷監督 永遠に年を取らない、ファンタジー的なヒーローではないじゃないですか。今回も「容疑者Xの献身」の時のこと、経験を踏まえている、生身のヒーロー。いつか幕を閉じる時が来るとは思っています。そこに対して、出来ることなら携わっていきたい。

東野氏も初日舞台あいさつに「ガリレオはこれでゴールインなのでしょうか?」とメッセージを寄せた。「透明な螺旋」含め原作の新作が出版されれば、実写化は検討していくのか。

西谷監督 もちろん新作が出れば、そういう目で読んでしまいますし、だんだん欲も出てきますね。不定期なシリーズであるところが、非常にワクワクするところでもあるんですけど。だから見届けていきたいと思うし。そろそろ幕を閉じようかという時は…分からないですけども、福山さんを含め、何か閉じ方の話とかあったら、それは、それで面白いですけどもね。

◆西谷弘(にしたに・ひろし)1962年(昭37)2月12日、東京都生まれ。CMディレクターを経て、96年のフジテレビ「TOKYO23区の女」でドラマ監督・脚本家としてデビュー。03年「白い巨塔」、04年「ラストクリスマス」、05年「エンジン」などフジテレビ系ドラマの演出を担当。06年の「県庁の星」で映画監督デビュー。監督作に09年「アマルフィ 女神の報酬」、11年「アンダルシア 女神の報復」、12年「任侠ヘルパー」、17年「昼顔」、19年「マチネの終わりに」、6月公開の「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」がある。フジテレビのドラマ・映画制作センターのディレクター。