ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(70)最大の政敵と言われ、20年8月に毒殺未遂に遭った、反体制派のアレクセイ・ナワリヌイ氏(46)を描いた米国のドキュメンタリー映画「ナワリヌイ」(ダニエル・ロアー監督)が、長編ドキュメンタリー賞を受賞した。

ダニエル・ロアー監督(30)はスピーチの中で「ナワリヌイのご家族に感謝します。世界は皆さんの味方です。今晩、この場に来られなかった人物がいます。ロシアの反体制派のリーダー、ナワリヌイ氏です。彼は今も、独房にいます」と、ナワリヌイ氏が投獄中であることを改めて説明。さらに「プーチン氏の、不当なウクライナの戦争の犠牲になっています。アレクセイのメッセージを、世界は忘れていない。我々は独裁者に恐れることなく、反対を貫き通すべき」と、ウクライナへの軍事侵攻を1年、続けるプーチン政権を痛烈に批判した。

授賞式には、ナワリヌイ氏に代わって妻のユリアさんが登壇した。ロアー監督に促され、スピーチしたユリアさんは「私の夫は、真実の言葉を語っただけで刑務所にいます。民主主義を守ったためだけに、捕らわれているのです」と、ナワリヌイ氏の現状を説明。その上で「アレクセイ、私はあなたが自由の身になる日を、そして私たちの国が自由になることを、夢見ています。愛しています。強くあってください」と呼びかけた。

ナワリヌイ氏は、独自調査によりプーチン政権と与党「統一ロシア」の汚職や不正蓄財を告発してきた。その中、20年8月、統一地方選を前にシベリアの都市で反政権候補の応援をして、モスクワに戻る機中で昏睡(こんすい)状態に陥り緊急入院し、ベルリンに転送された。化学兵器禁止機関(OPCW)は、猛毒の神経剤ノビチョク系の物質を検出した。

プーチン大統領は即座に一切の関与を否定したが、ナワリヌイ氏は自身の命を狙う者の正体を暴くべく、ドイツで身を隠しつつ、チームと命がけの調査を開始した。「ナワリヌイ」の撮影チームは、その調査現場に極秘密着し、同氏が切り込んでいった政府の強大な闇を映し出した。

ナワリヌイ氏は、21年1月17日に療養先のドイツからロシアに帰国し、モスクワの空港到着直後に拘束された。同氏は、その際、記者団に「何も恐れない。私に対する事件はでっち上げだ」と語った。その後、過去の有罪判決に付された執行猶予の取り消しで禁錮2年6カ月の実刑を科された上、22年3月にはロシアの裁判所が、法廷侮辱などの罪で禁錮9年を言い渡した。