「いま、ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。逃げまどう人々の姿に心が痛みます」。慰霊祭で藤井宏之・黒川分村遺族会会長の言葉は、いつもと違っていた。

敗戦時の旧満州(中国東北部)。襲ってくる現地人から守ってくれることを条件に未婚の女性をソ連兵に差し出した性接待の暗い過去を持つ岐阜県白川町の旧黒川満蒙開拓団。2020年冬、接待の犠牲になった女性を東海テレビの夕方ニュースで取り上げ、このときは涙で声を詰まらせてしまった上山真未アナが改めて97歳になった佐藤はるえさんや長野県阿智村の満蒙開拓平和記念館を取材した。

女性として生涯、口にするまいと誓ったことを「あなた方は伝えることができる人でしょ」と上山アナたちに重い口を開いたはるえさんは、テレビに流れるウクライナの映像に「私たちの時代も戦争、戦争。寂しい時を通ってきたなぁって」。

ウクライナ侵攻以降、少しずつ入館者が増えているという記念館の寺沢秀文館長は「満蒙開拓というけど、家も畑もあった現地の人を追い出した。そういうことも知ってください」と、はるえさんたちの被害とともに加害の歴史も語っている。

体も心もズタズタになって帰国したあと、人の目をはばかって黒川に戻ることもできなかったはるえさんは「人間が人間として生きるには、戦争は絶対にあってはならないことです」。

番組には慰霊祭に参加された開拓団の年老いた男性の声も流れた。「自分の国の都合で、ほかの国の人々を泣かすなんて絶対にしてはなりません」。

この2つの言葉に、「平和」への思いが凝縮されているように思えてならない。

◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。