岸田文雄首相(21年11月30日撮影)
岸田文雄首相(21年11月30日撮影)

2022年は夏に参院選を控える選挙イヤーだ。しかし、選挙イヤーそのものはまもなく幕を開ける。米軍基地政策をめぐり、長年、政権と地元が対立を続ける沖縄県で、米軍普天間飛行場の移設工事が進む辺野古をかかえる名護市で、1月16日に市長選が告示される(1月23日投開票)。沖縄は今年、この名護市長選を皮切りに17市町村の首長選、30市町村で議会選挙が行われ、秋には玉城デニー知事が再選を目指す県知事選も予定される。名護は、いきなり「天王山」の戦いとなる。

前回の名護市長選を含めて、第2次安倍政権での沖縄での選挙は、安倍氏と当時知事を務めていた故翁長雄志氏の「代理戦争」の側面が色濃く続いた。何度か、その「代理戦争」の選挙戦を取材したが、中央政界からの多数の応援参戦や、移設反対を訴える「オール沖縄」の活動を含め、激しい戦いばかりだった。

前回18年1月の名護市長選もそう。辺野古移設の是非が大きな争点になった。「オール沖縄」や、翁長氏が全面支援した現職と、自民、公明両党の支援した新人の一騎打ち。「壮絶な戦い」「城(市庁舎)の奪還だ」と、両陣営の散らす火花は相当なものだったが、結果は、移設反対派の現職が敗れる結果になった。

18年市長選で初当選した渡具知武豊氏(左)の応援には自民党の三原じゅん子参院議員ら多くの国会議員が応援に入った(18年1月28日撮影)
18年市長選で初当選した渡具知武豊氏(左)の応援には自民党の三原じゅん子参院議員ら多くの国会議員が応援に入った(18年1月28日撮影)
18年の名護市長選では、現職だった稲嶺進氏(右)の応援に志位和夫、小沢一郎両氏ら野党大物が応援に駆けつけた(18年1月27日撮影)
18年の名護市長選では、現職だった稲嶺進氏(右)の応援に志位和夫、小沢一郎両氏ら野党大物が応援に駆けつけた(18年1月27日撮影)

その年の秋に行われた知事選で、名護市長選後の18年8月に亡くなった翁長氏の「後継」となった玉城氏が自民推薦候補に勝ち初当選したものの、辺野古がある名護の市長選で時の政権が支援した候補が勝利したことは、辺野古移設問題のフェーズを変えるきっかけにもなった。

あれから4年。今回は、前回、初当選して再選を目指す渡具知武豊氏(60)と、オール沖縄などが支援する名護市議の岸本洋平氏(49)の一騎打ちだ。与野党幹部らが地元を応援に訪れるなど、戦いの前哨戦はすでに昨年から始まっていた。

しかし、ここにきて選挙戦の行方を揺るがしかねない事態になっている。沖縄は現在、新型コロナウイルスのオミクロン株の感染が爆発的に拡大している。地元の関係者に電話で話を聞くと「このままでは、選挙どころではない」と、危機感の声も聞かれた。渡具知氏の陣営では、予定されていた河野太郎広報本部長らの応援が中止に。岸本氏の陣営でも、玉城知事は日々コロナ対応に追われ、支援体制にも影響が出ている。渡具知、岸本両氏とも動画配信やSNSを使うなど選挙戦略の立て直しにも動くが、移設をめぐり「激突型」の選挙であることには変わりない。

一方、沖縄でここまでの感染爆発を招いたのは、在日米軍基地内での感染対策の甘さがきっかけだった。あらためて基地のあり方がクローズアップされる機会にもなるだけに、岸田政権側の警戒感は相当だ。

沖縄での選挙をめぐり、長く「代理戦争」の当事者となっていた安倍氏は政権を去り、翁長氏はこの世を去ったが、基地問題をめぐる中央政権と地元の「代理戦争」という構図は変わらない。ただ、今回は、昨年の衆院選をのぞいて、岸田政権になって初めて沖縄を舞台にした本格的な与野党激突の選挙に、コロナ禍という不確定要素が加わった。

関係者によると、現職を支持する自民党にとっては、けして楽観視はできない情勢だという。深刻なコロナ禍でますます票読みしにくい状況になっているようだ。

米軍基地のある山口県岩国市や、岩国市に隣接する広島県内でも感染拡大が続き、9日から沖縄を含めた3県がまん延防止等重点措置の対象になった。山口では2月に県知事選が予定される。今のコロナ禍における選挙は、結果次第で、選挙イヤーに臨む岸田政権を揺るがす要因となる可能性もある。その幕開けが、名護市長選だ。【中山知子】