荒木千陽氏(左)の街頭演説に駆けつけ、ガンバローコールでこぶしを突き上げる小池百合子東京都知事(22年6月18日撮影)
荒木千陽氏(左)の街頭演説に駆けつけ、ガンバローコールでこぶしを突き上げる小池百合子東京都知事(22年6月18日撮影)

150日間続いた通常国会が幕を閉じ、6月22日公示の参院選(7月10日投開票)に向けた各党、各候補の活動が本格的に始まった。立候補者の数が多く、毎回毎回「激戦区」といわれる東京選挙区(改選6)は、今回ももちろん激戦区。そんな中、候補者以上に注目されるキーマンが、動いた。東京都の小池百合子知事(69)だ。18日夕、都庁おひざ元の新宿、JR新宿駅西口で街頭に立った。

小池氏が街頭で本格的に演説するのは、昨年の都議選の応援をのぞき、コロナ禍に入ってから初めてだ。

自身が特別顧問を務める「都民ファーストの会」が国政挑戦へ結成した「ファーストの会」から、長年秘書を務め、最側近でもある荒木千陽氏(40)が、東京選挙区に出馬する。荒木氏を「長年の相棒」と呼ぶ小池氏にとって、相棒の当落は、選挙後、自身の求心力や存在感にも大きくリンクしてくる。勝てば、都民ファーストの会として2017年衆院選で目指しながら果たせなかった国政初議席に、5年越しで手が届く。敗れればまたもや、国政進出のチャンスを失うことになる。

この日の街頭演説は、荒木氏にとって公示前最後の大規模演説会。このタイミングに合わせて小池氏が街頭に立つ機会が水面下で調整され、直前に決まった日程だった。推薦を受ける国民民主党の玉木雄一郎代表、自民党との接近が顕著な連合の芳野友子会長もマイクを握る「フルラインアップ」(関係者)の顔ぶれ。「東京の成功例の伝道師になってほしい。東京大改革を日本大改革へ押し上げていくような人材として活用していただかないと、もったいない」。小池氏は、国会議員時代から好んで使う「もったいない」のフレーズを用いて、荒木氏への支持を訴えた。

小池氏にとって荒木氏は「手放せない存在」(周辺)。小池氏自身は参院選に出馬していなくても、事実上二人三脚で選挙戦を戦っている立場でもある。

小池氏は2016年、当時属した自民党と決別する形で都知事選に出馬し圧勝したら、翌2017年の都議選では「都民ファーストの会」を率いて大勝。既成政党も脅かす存在になった。この年の秋に衆院解散の流れが出ると、機を逃さぬとばかりに国政挑戦に打って出たが、自身の発言の影響などもあり惨敗。その後は「都政にまい進」という言葉を使い、国政への動きは封印してきた。

2017年は、永田町のさまざまな政局の動きと、小池氏の政局観がかみ合い、小池氏が「動いた」ケースだった。その後、小池氏には「国政復帰か」の臆測がたびたび浮上したが、昨年まで衆院選は行われず、さらに2020年に入ると新型コロナ禍が拡大。その対応に追われる中、体調を崩して2度入院。辞任の臆測まで流れた。

永田町関係者は「小池さんにとって『もしかしたらいつかまた動くのではないか』と思わせておくことが、求心力を保つ上で大事」と話す。今年5月末、メディア非公開で都内で開かれたパーティーも「新たな動きをぶち上げるのではないか」とざわつかせたが、この時は動きは出ないままだった。

「女性初の総理」に意欲をみせてきた小池氏だが、国政ではコロナ禍の間に首相が安倍晋三氏から菅義偉氏へと替わり、今は3人目の岸田文雄首相に。今回の参院選で自民党が勝った場合、衆院議員の任期となる3年後の2025年まで解散がなければ衆院選はなく、参院選もない、政権にとって「黄金の3年」が訪れるといわれている。そうなると、小池氏の「出番」は遠のいていくばかりだ。

荒木千陽氏(左)の街頭演説に応援に入った小池百合子都知事(中央)と連合の芳野友子会長(22年6月18日撮影)
荒木千陽氏(左)の街頭演説に応援に入った小池百合子都知事(中央)と連合の芳野友子会長(22年6月18日撮影)

一方で、本当に無風のまま3年が過ぎると完全に信じている国会議員は、どれほどいるだろう。国際情勢は不安定で、国民には物価高(インフレ)が日に日にひどくのしかかる。一寸先は闇の政界では、何が起きるか分からない。そんな、何が起きるか分からない古巣の永田町に、足場のような「引っかかり」のようなものを作っておく。そのために必要なことの1つが、「相棒」の国政進出なのだ。

小池氏には、かつては険悪だった自民党サイドから、参院選での自民候補の応援依頼があったとされる。6月17日の定例会見で、荒木氏以外の候補の応援もするか問われた小池氏は「(荒木氏について)党派を超えてでも応援するとかねがね申し上げている。それ以上でもそれ以下でもない」と、明言を避けた。東京選挙区には著名人も多く出馬を予定しており、各社情勢調査の中には荒木氏を「当落線上」とする分析もある。昨年の都議選では、選挙戦最終日に退院直後の小池氏が候補者の応援に回ったことで、大劣勢といわれた都民ファの議席減を食い止め、第2党でとどめたといわれる。小池氏が「動いた」結果だった。

このような「作戦」は、今回の参院選でも検討されているようだ。小池氏は公務の合間に荒木氏の応援に入る予定で、22日の公示日の第一声にも駆けつける。今後の自身の動向を方向付ける、相棒と二人三脚での参院選。理由があるからこそ「動く」のだ。【中山知子】