岸田文雄首相(2019年7月21日撮影)
岸田文雄首相(2019年7月21日撮影)

旧統一教会の問題がここまで深刻になってきたのに、関係の深さを自発的に明らかにしようとせず、ついに任命権者の岸田文雄首相に見限られた自民党の山際大志郎氏(54)が、経済再生相の職を退いた。

山際氏が辞任した10月24日は、岸田政権にとって悪い意味で大きな節目の日になった。山際氏はこの日まで開かれていた衆参両院の予算委員会で、周囲が期待した答弁ができなかった。首相の肝いりで自身も関わる総合経済対策のとりまとめ作業が、迫っていた。山際氏が大臣の所信を表明するはずだった衆院内閣委員会の開会も数日後に予定されていたが、山際氏が大臣として出席することに野党が反発していた。つまり、どうあがいても辞めるしか道はなかった。

山際氏は辞任のぶら下がり取材で「このタイミングしかなかった」と述べていたが、ずるずる退場のタイミングを引き延ばした結果、「ダメージしか残らなかった」(自民党関係者)という最悪の幕引きになってしまった。

問題は、そこまで引っ張りながらなんのオチもなく傷だけを負う形になった岸田文雄首相の決断力にあった。引っ張った理由のひとつに「ドミノ辞任」への警戒があったといわれている。山際氏だけでなく、寺田稔総務相と秋葉賢也復興相が、親族をめぐる事務所費の問題を抱えている。そんな中、山際氏が辞任した後、立憲民主党党が衆議院でスタートした各委員会で政務三役に旧統一教会との関係をただすと、複数の副大臣や政務官、首相側近の官房副長官にまで何らかの関係が連日、露呈。山際氏の辞任は「幕引き」ではなく、さらなる混乱の「号砲」となってしまった。

山際大志郎・前経済再生相(2021年10月撮影)
山際大志郎・前経済再生相(2021年10月撮影)

関係者は言う。

「山際さんの問題は、直接、法的な部分に触れる話ではないが、寺田、秋葉両大臣の話は、いわゆる『政治とカネ』の話。法律に触れる恐れがあるから野党が追及している。2大臣のほうが、もし辞任となれば、岸田首相が受けるダメージは山際さんより深刻だ」。また「総理が、山際さんの処遇の判断をグダグダに引っ張ったことで、寺田、秋葉両大臣の事務所費問題にさらにスポットライトを当たる形になってしまった。安倍晋三元首相の追悼演説の人選で、不毛な時間が費やされたのと似ている。決めきれないのは、今の政権の特徴だ」。

閣僚の辞任は、時の政権に大きなダメージとなる。特に、辞任が続く「ドミノ辞任」となると、政権がもたなくなることもある。

複数の閣僚が問題を抱える今回のパターンと酷似する例はこれまでにもあったが、事務所費問題という観点では、第1次安倍政権で起きた複数の閣僚の事務所費問題がある。そしてこの時は、ドミノ辞任に発展した。第1次安倍政権発足からわずか3カ月後の2006年12月、佐田玄一郎行革相(当時)が事務所問題で辞任したのを機に、2007年5月に松岡利勝農相(同、死去)、松岡氏の後任の赤城徳彦農相(同)が8月に、事務所問題で辞任、交代になった。当時、農相ポストは「鬼門」といわれ、赤城氏の後任の遠藤武彦農相にも9月、政治とカネの問題が明るみに出たことがとどめとなり、同じ月に安倍晋三首相は退陣に追い込まれた。ほかにも失言で辞任した久間章生防衛相(同)を含め、2006年12月から2007年9月にかけて5人が辞任、交代した。

寺田稔総務相(2022年9月13日撮影)
寺田稔総務相(2022年9月13日撮影)

第2次安倍政権でも、14年10月に政治資金をめぐる問題が出た小渕優子経産相(同)、「うちわ」問題の松島みどり法相(同)が相次いで辞任。19年10月には、菅原一秀経産相(同)が政治とカネ、河井克行法相(同)が自身の妻の選挙をめぐる問題で相次いで辞任した。「安倍1強」という岩盤の政権だったため、第1次政権のようなことにはならずギリギリ踏みとどまったが、この時も受けた打撃は大きかった。

そして今回、特に関心が注がれていることは、岸田内閣では大臣だけでなく、政務三役の間にも旧統一教会との関係が日々、ぽろぽろと明らかになっていることだ。この「ぽろぽろ」が1つ1つ積み重なれば、大きな負荷になる。また、「誰にどんな問題が出てくるか党も政権も誰も把握できていない」状態で、出てくる問題も「深刻なこと」が、政権や自民党関係者たちの頭痛の種といわれている。水面下では、山際氏の次の「退場者」は誰かと、名前が飛び交うような状態だ。

今、岸田政権にとって良いニュースはほとんどない。閣僚のドミノ辞任、参院選敗北など、何をやってもうまくいかない悪循環で首相が体調を悪化させ退陣となった第1次安倍政権と岸田政権を重ね合わせる人は、少なくない。【中山知子】