臨時国会が召集され、岸田文雄首相が「経済、経済、経済」と3連呼、三唱して経済対策への取り組みへの決意の強さを強調した所信表明に対し、自民党幹部の世耕弘成参院幹事長が、その内容に異例の「ダメ出し」を連発して、永田町をざわつかせた。
「支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待するリーダーとしての姿が示せていないことに尽きる」「首相の決断と言葉に、いくばくかの弱さを感じざるを得ない」と、政治姿勢への苦言に加え。首相が躍起になっている「税収増の国民への還元策」についても「物価高に何をしようとしているのか、まったく伝わらなかった」「重要な局面で発信する際はじっくりと考えて決断し、水面下の根回しも入念に行って、政治家としての言葉で発信していただきたい」と、次々と厳しい注文をつけた。
確かに、岸田首相の言葉はダイレクトに国民の気持ちに響くほどのインパクトはないように思うし、3連呼を上回る「増税メガネ」などの増税イメージがついて回っている現状は変わらない。ポジティブな言葉でもなかなか前向きにとらえてもらえない状況は、国会審議を取材していても変わっていないように感じる。
時の首相だからと、党内から批判や文句を言ってはいけないきまりはない。今年7月に石破茂元幹事長にインタビューした際、「安倍1強」の時代を経て、自民党内が「物を言えない」状態となり、岸田政権になった今も続いていると指摘していた。「物言わない」ことに慣れてしまったこともあるからなのか、世耕氏が会派を代表しての代表質問の場で、首相の目前でダメ出しを連発したことにはかなり波紋が広がった。
ただ、代表質問の場で自民党幹部による時の首相への「ダメだし」は、今回が初めてではない。
2002年10月の参院代表質問を思い出す。「参院のドン」といわれた自民党の青木幹雄参院幹事長が、小泉純一郎首相の経済政策を公然と批判した。「政策の内容が乏しい。経済政策で総理のリーダーシップが発揮されていると思わない」と批判したが、今回の世耕氏と同じような内容だった。肩書は同じだが、現在の世耕氏の立場よりさらに強い力を持っていた実力者の青木氏が、「内閣の方針に反対する者はすべて抵抗勢力」と言い切っていた小泉氏に「指導者は、頑固頑迷であってはならない。君子豹変すべき」と説教するような場面は、取材していて緊迫感があった。
ただこの時、小泉氏は質問の前に、青木氏と会った際に「代表質問できついことを言うかもしれん」と、予告されていたといわれる。青木氏は「今、まさに求められているのは、デフレや金融対策に関しての指導力、リーダーシップだ。私は、それができ得る総理だと信じております」と、批判しっぱなしではない部分もあった。
ドンの苦言に小泉氏は「質問に加えまして率直なご意見、激励。ありがとうございました」と切り返し、身内からの批判というダメージ色をうまく薄めた。小泉、青木両氏は、気脈を通じた関係でもあった。一方、今回の岸田首相は世耕氏の苦言に真正面から答えず、小泉氏のような懐の深さも感じられなかった。
代表質問の翌日、世耕氏は所属する安倍派の会合に出席した際「けして苦言ではなく助言」と助け舟を出した塩谷立座長の言葉に笑顔でうなずいていたが、この時、塩谷氏は、党税制調査会幹部の間にも世耕氏と同様の意見があったことを認めた。「首相の言葉は割合、ストレートにこない。我々にも分からないことは、国民にもなかなか伝わらない」。自民党内では「世耕氏の苦言が、今の自民党内のリアルな岸田評だ」という声があるとも聞いた。
ところで、世耕氏は国会議員になる前、NTTで広報を担当した経歴がある。報道担当課長として、企業PRの「プロ」でもあっただけに、「伝える」手段には自分なりのこだわりもあるのかもしれない。2005年に小泉氏が郵政選挙に踏み切った際には、小泉氏の側近だった飯島勲氏(現・内閣官房参与)が演出した「小泉劇場」の一端も担った。当時「コミュニケーション戦略チーム」を率いて選挙対応に当たり、著書を出されたこともある。
発信してもなかなか伝わらない岸田首相の言葉。世耕氏はダメ出しだけでなく、プロの流儀を伝授してみてはどうだろうか。そんなことまで考えてしまう代表質問の場だった。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


