危機感が漂うはずの取材の場で、不思議なほど緊張感が感じられなかった。

安倍派の裏金事件など自民党派閥パーティーをめぐる政治資金事件を受け、再発防止策や派閥のあり方を検証するため、自民党本部で11日に開かれた「政治刷新本部」の初会合。トップの本部長を務める岸田文雄首相以下、執行部やベテラン、中堅、若手まで計38人がメンバーに選ばれ、首相や茂木敏充幹事長のあいさつを報道陣に公開後、非公開で約1時間、議論が行われた。

自民党本部の取材時、以前はなんとなく可能だった「壁耳」(会議室のドアや壁に廊下側から耳を付けて、中で飛び交う議論を聞く)取材に今は厳しく、報道陣は会議室から離れた場所で終了を待ったが、少なくとも活発な議論が行われている雰囲気は感じられなかった。関係者によると、出席者から派閥解消などを求める声が相次いだものの、この場では岸田首相や執行部側から具体的な回答はなかったという。

ある出席者は「ガス抜きの場にならないか心配」と話した。実際、関係者からはこの会議について「画期的な結論が出るとは、上の人は考えていないはず。世間の逆風もあり『やってます感』を示さないといけないからやっているだけ」「刷新感より、やってます感」という後ろ向きな評価を聞いた。国民は、物価高の中、お金をやりくりしながらの生活だ。しかし、今回の事件では、高額の報酬を手にしている国会議員がこっそり裏金を工面していた疑惑が表面化し、それがばれても積極的な状況説明は、当事者だけでなく党側からもなされていない。

会議が行われた会議室は、想定したより狭い部屋だった。初会合ということで多くの報道陣が集まり、狭いエリアに殺到。こちら側は殺気立つほどの空気だった。そこまで注目されながらも、岸田首相のあいさつは「自民党の現在の状況に極めて深刻と強い危機感を持ち、一致結束して対応していかなければ」「原点に立ち戻りたい」など、抽象的な内容が多かった。

そもそも派閥の会長、しかも麻生派会長の麻生太郎副総裁と茂木派会長の茂木敏充幹事長という、岸田首相が頼るトロイカグループの一角が鎮座(麻生氏は外遊で11日は欠席)している中、「派閥のあり方」にどこまで画期的な結論が導かれるのだろう。そもそも、いつの時代になっても繰り返される問題の本丸「政治とカネ」の解決策が、短期間の間に生まれるとも思えない。問題の渦中にある安倍派の議員が10人、無派閥の議員が10人(離脱中の岸田首相含む)、安倍派と同じキックバック問題が指摘される二階派の議員もいる。問題解決に向けた人選というよりこの期に及んでバランスを重視したからなのか、要は危機感が漂ってこなかった。

ここにきて、メンバーの安倍派議員10人中9人にも裏金疑惑が浮上したが、一連の問題発覚後、安倍派の閣僚や党幹部を更迭した岸田首相は今回、メンバー交代を否定した。安倍派議員の刷新本部メンバー入りには、自民党関係者も「ブラックジョーク」と首をひねったが、裏金疑惑が出てきてしまっては、ブラックジョークの上塗りだ。

首相自身が1人1人選んだわけではないのだろうが、組織出直しに向けた人選にミソがつけば、結局判断は裏目に出たことになる。昨年、「増税」イメージが消えない中、増収分を国民に還元するとして定額減税を表明しても、国民にまったく響かなかったのと同じように、裏目、裏目の連続。時に、朝令暮改な対応をしても平然としている岸田首相だが、今回のような肝心な時に、安倍派議員は更迭しないと開き直った。結果的に墓穴を掘っても対応を変えないのも、やはりどこかに「やってます感」があるからではないかと感じてしまう。

ピンチの場面をチャンスにつなげる局面づくりに、今のところは失敗感が漂ったまま。今週には、全議員が参加できる意見交換の場が設けられる予定だ。36年前のリクルート事件を受けて行われた党改革に向けた全議員の議論の場は、3日間続いたとも聞く。さまざまな意見があっても最後は集約して一致結束まとまるのが、「数の力」の良さも怖さも知る自民党の伝統と感じるが、今回ばかりは「落としどころ」感が漂う結論が出るとなれば、逆風はさらに強まると感じる。

ただ、そもそも最初から、1月26日予定の国会召集前までに中間とりまとめと行うという期限付きの中、どこまで議論が深まるのだろうか。「やってます感」を見せ続けられるとするのであれば、たまったものではない。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)