自民党派閥パーティー裏金事件をめぐる衆院政治倫理審査会が2月28、29日に開催されることになった。安倍派の座長や幹部グループ5人組の中の事務総長の経験者、二階派幹部の計5人。原則は非公開の審査会だが、ここまでおおごとになってしまった裏金問題だけに、だれもが説明の内容を聞きたいと思うのだが、全員が原則通りの非公開を希望していることが分かり、野党は反発。野党に反発されるまでもなく、一般国民の感情としても「なんで?」だろう。過去に9回行われた政倫審に出席した8人のうち、完全非公開だったのは加藤紘一氏1人だけ、メディアにまで公開した人は田中真紀子元外相ら3人いる(4人は一部の国会議員に公開)。

公開に動くよう求められた岸田文雄首相も、説明を尽くすよう促すとしながらも、公開か非公開かは「国会で決めること」という、相変わらずの対応。自民党の危機に、リーダーが目に見える形での指導力をみせられない現実に、岸田内閣支持率も、今年9月の総裁選再選への期待もどんどんしぼんでいっているように感じる。

首相がそんな状況で国会で野党の集中砲火を浴びる機会が多い中、外相として外国訪問を続けているのが、上川陽子外相だ。先日、麻生太郎副総裁による年齢や容姿に関する発言で一躍注目された、自民党の女性議員。岸田首相の政権運営に業を煮やした麻生氏が、新たな総裁候補にまつり上げるため、あえてスポットライトを当てたとの見方がもっぱらだ。まるでキングメーカーのような麻生氏の動きに、「麻生印」(国会関係者)のイメージがつくことの影響はあるとみられるものの、少なくとも各社の世論調査での「ポスト岸田」としての評価は、じわじわ上がってきている。

その上川氏は2月20日に日本を出発。地球の裏側にあるブラジルで開かれたG20外相会議に出席し、その後パナマも訪れている。上川氏は今年に入り、外国訪問が続く。1月5日に日本を出発し18日までヨーロッパ、北米、トルコを訪れ、その過程ではウクライナも訪れた。今月9日から13日までは、サモアを訪れ、太平洋・島サミットにも出席。5年近く外相を務め「外相の岸田」を自負する岸田首相の足跡をなぞるかのように、外国訪問が続く。

首相就任前に外相を務めた中には、麻生氏や岸田首相がいる。また2年あまりの在任中に、のべ123の国と地域を訪れ、外相専用機の必要性まで主張した河野太郎デジタル相や、上川氏の前任だった林芳正官房長官ら、将来の「総裁候補」として名前が挙がる機会もある面々も外相の経験者。ある永田町関係者は「昔は大蔵大臣、今の財務相が『首相への登竜門』といわれた。しかし、国際情勢が激変する中、外相としての経験や各国とパイプがあることは、これから首相になる人には大きな必須要素になり得るのでは」と話す。

外相外交は、首相外交ほど目立つものではない。それでも、英語が堪能で、にわかに「ポスト岸田」の有力候補に浮上してきた上川氏にとっては、首相が日本で集中砲火を浴びるさなか、淡々と実績づくりをしているようにも映る。

もし岸田首相が今年9月の総裁選に出馬できないような事態、再選が厳しいような事態になった場合、永田町では「女性の参戦」が大きな鍵を握るといわれて始めている。上川氏もそうだが、前回も出馬した高市早苗経済安全保障相は、自身が主催する政策勉強会を通じて総裁選を見据えているとの見方が強く、21日の会には総裁選出馬に必要な推薦人20人に迫る19人が参加し話題になった。野田聖子元少子化相は今月7日のBS日テレの番組で、出馬への意欲を示した。そして、本人が否定しても国政復帰の臆測が消えない小池百合子東京都知事の動向にも、関心が注がれている。

今秋の自民党総裁選は、史上最も多くの女性候補が出る戦いになるのでは、と分析する関係者の声も聞いた。ただその前に、自民党が裏金問題にどう決着をつけるのかという関門が待ち受けている。今回の大きなダメージを、実現すればいずれも初めてとなる「女性総裁」や「女性首相」への期待でごまかすようなことは、あってはならないと感じる。【中山知子】

(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)