7月20日の参院選で大敗し、自民党は結党以来初めて衆議院、参議院でともに少数与党に陥った。当然ながら、石破茂首相への退陣要求が自民党内で勢いを増している。政権を手放す「下野」をしてでも退陣を、と求めるような動きまである。2度の野党陥落をへても復活し、政権を担うことへの執念が活力の1つでもある自民党には考えられない動きだが、それだけ石破首相の続投を容認できない空気が、党内に漂っている。ただ石破首相は続投の方針を明言。「退陣号外」が配られたり、非主流派主導による「石破おろし」が起きていることに、怒りをみせているとも伝えられる。
これまで、参院選で敗れてすぐ辞任した首相はいる。リクルート事件や初めて導入された消費税が影響した宇野宗佑氏や、「恒久減税」をめぐる発言が物議を醸した橋本龍太郎氏は、敗北から時を置かず職を退いた。今回、石破首相にとっては、昨年の衆院選、6月の東京都議選に続く3連敗で、退陣論拡大はある意味、仕方ないかもしれない。ただ、大苦戦が指摘されていた選挙戦中も、一部で「石破首相は辞めない」との観測もあった。首相にとっては、2008年の総裁選初立候補から昨年の5度目の挑戦で当選するまで、16年かけて上り詰めた立場。それでも首相の進退問題は、自民党内の分断を招きかねない状況だ。
その「石破おろし」の今後へ向けて1つのヤマ場になるのが、7日28日に開かれる両院議員懇談会。執行部の面々がひな壇に並び、出席議員が意見をぶつけていく。批判が飛んでも執行部は受け止めるだけで、「ガス抜き」といわれる。同様に敗北した昨年の衆院選後にも開かれ約3時間、60人が意見を述べ、首相への批判も相当出たが、それ以上事態は進まなかった。その果てに今年6月の東京都議選、そして今回の参院選の大敗だ。たまり続けた不満や怒りが爆発した結果が、今の石破おろし拡大につながっていると感じる。
時の首相に対する両院議員懇談会で思い出すのは、2009年7月、当時政権を率いながら、窮地にあった麻生太郎首相が出席した会合。会合前、麻生氏の衆院解散戦略に反対する議員が、懇談会と違って議決権のある両院議員総会の開催を求め、署名活動が行われた。今回と流れは同じだ。この時、直接面会して退陣を迫ったのが当時農相だった石破首相で、今回16年の時をへて「ブーメラン」になっていると言われるゆえんだ。当時の石破首相を含めた「反麻生」議員の署名は、「総会」開催要求に必要な党所属国会議員の3分の1超が集まったが、執行部側が名簿の点検に着手すると署名を取り下げる議員も出たりして、最終的に「総会」開催に至らなかった。開かれたのは「懇談会」だったが会直前、麻生氏は解散総選挙の方針を表明。懇談会はガス向きにもならず、約30分で終了した。
この時、麻生氏は涙ながらに結束を求め、批判的な意見もほぼ出なかった。表向きの「結束」を演出して自民党は衆院選に突入したが、歴史的大敗で政権を民主党に明け渡し、麻生氏は退陣した。当時の記事には「親麻生でも反麻生でも一枚岩になれず、抗争に明け暮れる自民党。都議選惨敗後から続く混乱は結局何も生み出さず、有権者の不信感だけが残りそうだ」と書いたが、今の自民党の姿にどこか重なって見えてしまう。
今回、当時と状況が違うのは、選挙の結果がより深刻ということと、当面の間、国政選挙がないこと。昨年の衆院選から東京都議選、参院選と3連敗した石破首相は、当時の麻生氏より重い「結果責任」を突きつけられているのは確かだ。
それでも24日に石破首相に面会した自民党の鈴木宗男氏によると「総理は淡々としていたが、目力というか、気合が入っていた」という。日米関税交渉の今後を念頭に「国益を損ねてはいけない。国民生活を守るのが私に与えられた最大の使命という強い決意と覚悟」を漂わせていたそうだ。首相続投を求める異例の「激励デモ」も開かれた。
「出処進退は政治家個人の判断」と言われる。特に、時の首相にとっての進退判断は孤独で重いが、今の石破首相には「石破おろしが強まれば強まるほど、踏みとどまろうとするだろう」(自民党関係者)との見方が強い。その見立てを聞いて思い出すのが、首相就任直後の2010年7月の参院選で大敗しながら、その翌年3月に発生した東日本大震災や原発事故への対応優先を理由に、辞任要求を突っぱね続けた民主党政権の菅直人首相。早期退陣を求める声は与野党に広がったが菅氏は応じず、報道でも「驚異の粘り腰」「1人『菅』軍」とやゆされた。退陣は、参院選から1年以上が過ぎた2011年9月だった。
石破首相自身は選挙敗北の責任は自覚しつつ、関税交渉の今後の対応などを、自身の「使命」と感じているともいわれる。首相の意地と、それを認めない「石破おろし」のぶつかり合い。「ここまで露骨なのは久しぶりでは」との声もある自民党の「公開権力闘争」が、本格的に始まる。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


