今年の夏は昨年同様の猛暑。一方で、永田町で展開される景色は、昨年とかなり変わったように感じる。昨年の今ごろは、参院選大敗の責任をめぐり、当時の石破茂首相が自民党本部で開かれた両院議員総会で、進退をめぐる追及も含めて所属議員から矢のような批判を浴びた。その自民党で先日、「出席と発言のお願い」として、高市早苗首相が示した消費減税の方針に賛成を促すような内容の文書が配布されたのを受け、「公約順守」のため議員が大挙して党本部の会議に出席し、首相方針への賛成論を展開した。
消費税減税をめぐって8月3日、自民党本部で開かれた党税制調査会と社会保障制度調査会の合同会議。7月31日の初回会議に続き、飲食料品の消費税を8%から1%に来年4月から2年間に限って引き下げる高市首相の方針について、党内議論が行われた。
7月31日に税調幹部が出席して行われた会議では、6対4で、反対が賛成意見を上回った。その後に行われた合同会議では、発言した28人のうち、賛成は18人で反対は10人。党内が高市首相の方針に必ずしも「賛成一色」ではないことを、如実に示していた。
そんな中、8月3日の合同会議を前に、自民党議員の事務所に「出席と発言のお願い」と題した文書が配られた。関係者によると、文書には「次の会議は、食料品の消費税減税を実現するために、極めて重要な局面になります。賛成の先生方が欠席・無発言となれば、『反対論が優勢』と受け止められかねません。総選挙で国民にお約束した政策を実現するためにも、必ずご出席いただき、賛成の立場からご発言いただきますよう、何卒よろしくお願いいたします」とあった。
末尾に「極めて重要な局面です。ご協力をお願いいたします」と、クギを刺すような言葉も。それに促されたのか、3日の会議で発言したのは先月末の会議を大きく上回る75人にのぼり、65人が賛成を訴え、反対はわずか9人。出席者によると、今回新たに出席して賛成を訴えた議員は、約50人にのぼったという。
首相方針に反対する議員の怒号に近い声は、報道陣が待機する部屋の外にまで響いたが、形勢不利とみたのか、反対を訴えた後で退席する議員もいた。終盤は、ほぼ首相方針に賛同する意見が続いた。その結果、小野寺五典税調会長に判断は一任された。この流れは「明らかに、出席要請文書の効果」(関係者)。閣議決定に向けた日程感から、この日の会議を「最大のヤマ場」とみて動員を促してまで反対派の主張を薄めようというのが、「結論ありき」で進む今の自民党の空気だった。
最終的に方針を了承した、党の常設最高意思決定機関の総務会では、財源を示すよう求める声が出たものの、「全会一致」での了承。小野寺氏の前任の税調会長を長年務め、税のプロとして、SNSで「ラスボス」とも指摘された宮沢洋一・前税調会長は姿すらなく、宮沢氏ら財政規律派を含め25人中9人が欠席する中での「全会一致」だった。
思えば1年前の両院議員総会では、「石破おろし」の空気が会場を支配し、総裁選実施の前倒しを求める声が相次いだ。両院議員総会でもあり、動員されなくても多くの議員が出席し石破氏への怒りや反省を求めて気持ちをぶつけた。これに石破氏は続投意欲を表明。今思えばある意味、健全なぶつかり合いだった。
ただ、自民党が高市人気で衆院選を圧勝し、「数の力」を手にしてからは、そうした「ものを言う」文化がなくなっているようにも感じる。今回の消費減税をめぐる異論や反論は、「高市首相の独善的な手法が目に余り、ついに党内からも『物言い』が出てくるきっかけとなった」(党関係者)と指摘する声も聴いた。
「石破おろし」の末、昨年、首相の座を退いた石破氏に3年前にインタビューした時、安倍晋三元首相が2度目の党総裁に就任以降、党内では「異論を受け付けない体質」が続いたとし、「(安倍氏の退任後も)あまり変わっていない。総務会で私が発言すると、『またお前か』みたいな空気になる」「もしかすると、自民党の体制が減点主義のようになっているのかもしれません。意見を言ったり、ましてや批判的なことを言えば点が減るから言わない。昔は、大激論が自民党の当たり前の姿でしたが」と話していた。
そんな石破氏から高市首相に代わって約10カ月。「物言わぬ」ようになった自民党内だが、こと消費税減税に関しては、反対の声も噴出している。ただ、党内議論はそれが封じ込められるように押し切られているのが現状だ。
消費税減税は、早ければ来月下旬にも始まる秋の臨時国会で法案が審議される。野党関係者は、「まずはどのようなプロセスで法案が出てくるか」と、まずは法案の中身を注視する。自民党内の反対論者には、「物言う」議員も多い。歴代政権で「鬼門」となってきた消費税を、初めて引き下げようとしている高市首相にとって、「結論ありき」ではなく、特別国会ではあまり見えなかった「説明力」が、いよいよ試される局面になるようにも感じる。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


