なんという不意打ちであろうか。三菱自動車が、SUVテイストの軽自動車を開発しているといううわさはあった。しかし、それは「パジェロミニの復活ではないか」という憶測であった。まさか、「デリカミニ」が登場するなど、多くの人は予想していなかったであろう。
なぜって、「デリカD:5」は3列シートのミニバンだからだ。法規上、4人乗車までとなる軽自動車で、デリカの名を冠するとは考えづらかった。また、三菱には「ekクロス スペース」という、SUVテイストのデザインを持つスライドドアのスーパーハイトワゴンがすでにラインアップされている。
スズキ「スペーシアギア」や、2022年10月に出たばかりのダイハツ「タントファンクロス」に対抗するクルマはすでにあったのだ。だから、デリカミニが登場するとは、予想外だったのである。
■三菱の看板モデルの名を冠して
1990年代に登場したパジェロミニは、当時三菱の看板モデルとなっていた「パジェロ」のスタイルを継承し、大ヒットした。しかし、今パジェロは存在しない。仮にパジェロが現在も生産されていて、それをなぞらえたパジェロミニが登場したとしても、スズキ「ジムニー」のような2ドアSUVの市場はニッチだ。
しかも、仮にパジェロミニを作るとしたら、プラットホームを新開発する必要もあるだろう。いずれにしても“パジェロミニ復活”は、現実的ではなかったのだ。そう考えれば、デリカD:5は今、三菱の看板モデルとなっているし、“オフロードのミニバン”というモデルは他社にない、唯一無二である。
折しも今は、SUV全盛の時代。さらに軽自動車の主流は、スライドドアのスーパーハイトワゴンである。これらヒットの要素を兼ね備えたデリカミニは、まさに“旬なクルマ”と言えるだろう。三菱は、このデリカミニについて次のように説明する。
「新型『デリカミニ』は『DAILY ADVENTURE(毎日の冒険)』をデザインテーマとした、SUVらしい力強いスタイリングの軽スーパーハイトワゴンです。『デリカ』シリーズはSUVとしての走破性とMPVとしての居住性を融合させた、三菱自動車ならではのオールラウンドミニバンとして、家族や仲間たちとアウトドアレジャーを楽しむお客様にご愛用いただいています。アウトドアレジャーの人気が高まる昨今、その『デリカ』シリーズの世界観を軽スーパーハイトワゴンに詰め込み、新型『デリカミニ』として提案します」
フロントマスクは、「エクリプスクロス」や「アウトランダーPHEV」などにも共通する三菱車の象徴「ダイナミックシールド」ではあるが、半円形のヘッドライトを採用することで親しみのある表情としているところが新しい。
どこか、ビッグマイナーチェンジ前のデリカ:D5のようであり、かつてのパジェロやパジェロミニを思わせる。オーバーライダー風のデザインが施されたフロントバンパーも同様だ。
ブラックのホイールアーチや前後バンパー下部のスキッドプレート形状により、SUVらしさを演出。さらに、フロントバンパーとテールゲートガーニッシュに採用された立体的な「DELICA」ロゴが、デリカ兄弟であることを強調する。
詳しいスペックは公表されていないが、カラーバリエーションは公開されており、ブラックルーフと組み合わせたツートーンが6タイプ、モノトーンが6タイプ。中でも「アッシュグリーンメタリック」は、デリカミニのコンセプトに合わせて開発した新色だという。
■まだサプライズはあるはずだ
スライドドアのスーパーハイトワゴンであるデリカミニのボディーをよく見れば、ekクロス スペースがベースとなっていることがわかるだろう。フロントマスクこそまったく違うが、ドアのプレスラインやクオーターでキックアップしたウインドウグラフィックは、ekクロス スペースと共通だ。
しかし、よく見れば車高が若干、高められているようにも見える。ekクロス スペースとバッティングするカテゴリーのクルマを出すのだから、なにかしらの差別点があるはずだ。今回の発表は、あくまでもエクステリアデザインの公開にとどまり、詳しいスペックなどは明らかにされていない。
次のデリカミニの情報がアップデートされるのは、2023年1月に開催される東京オートサロン2023でのことだろう。三菱は、東京オートサロン2023にこのデリカミニを参考出品すると発表している。
ひと目でデリカ・ファミリーだとわかるエクステリアデザインのほかに、どんなサプライズがあるのか楽しみである。なお、発売は初代デリカの発売から55周年となる2023年度初夏と予定しているという。
【木谷 宗義 : 自動車編集者/コンテンツディレクター】