ふるさと納税の寄付受入額で全国4位の125億円(82万件)を集める北海道の小さな町がある。釧路市に隣接する人口約7300人の白糠町だ。返礼品として一番人気のイクラをはじめ、ししゃも、毛がに、エンペラーサーモン、えぞ鹿肉、羊肉、しそ焼酎の「鍛高譚(たんたかたん)」など豊富な食材が売りだ。今年も「ふるさと納税」の寄付期限が迫ってくる中、白糠町の新たな仕掛けを追った。


白糠漁港ではさまざまな海産物が水揚げされる(筆者撮影)
白糠漁港ではさまざまな海産物が水揚げされる(筆者撮影)

11月24日、町役場でふるさと納税の新たな戦略食材の試食会が行われた。今回、まちが選んだのは、長年不漁が続いている鮭(サケ)とは対照的に漁獲量が増えてきているブリだった。2021年の漁獲量(道全体)は1万4100トンで、鮭の4分の1を占めるまでになっている。

同町は、地域ブランド発掘などを手がける東京のイミューという会社と一緒に、ふるさと納税の寄付者とまちのつながりを強化する「白糠産品開発プロジェクト」をこの秋からスタートさせた。第1弾は「しらぬか秋鮭」で、第2弾がブリというわけだ。

「白糠漁港では2019年に0.5トンだったブリの漁獲量が2022年は17.4トンと急激に増えています。ただ、北海道ではブリを食べる文化がほとんどなく取引値が安いというのが実情です。

そこで、ブランド化を考え、①白糠漁協で水揚げされたもの②船上で生き締めを行ったもの③魚体が7キロを超えるもの、という3条件を満たしたブリを『極寒ブリ』と命名しました。さらに、Kai’s Kitchen(神奈川県二宮町)のオーナーシェフ・甲斐昴成さんにお願いして厳選レシピを2つつくっていただき、それを返礼品とすることにしました」(イミューの黒田康平社長)

こうして出来上がったのは、切り身を甘辛いしょうゆダレに漬け込む大分県の郷土料理を応用した「極寒ブリのりゅうきゅう」と、白糠町名産の赤しそを使ったしそ風味漬けの「極寒ブリのたんたか」の2種類だ。

会場内で2種類の料理の試食会が行われ、「りゅうきゅうはトロリとしたタレがブリに合う」「たんたかはさっぱりして食べやすい」など、参加者の評価はおおむね好評だったようだ。


試食会の様子(筆者撮影)
試食会の様子(筆者撮影)

寄付者と白糠をつなぐ新たな試み

「極寒ブリ」の受付開始は11月下旬で、2種類合計6パック詰め(1パック80gとタレ)で限定200食となっている。寄付金額は1万1000円。ここまでであれば、新たな新規ブランド商品を返礼品に加えたということになるが、今回の産品開発プロジェクトには、ある仕掛けが用意されている。

返礼品のなかに白糠産品プロジェクト参加券が同封されていて、公式LINEを通じて「開発プロジェクト」にエントリーして、評価フォームに入力することで、感想や批評、要望、提言など寄付者の生の声を報告できるようになっている。そうした評価をもとに改良し、結果をLINEで公表するとともに新商品開発に結び付けていく。プロジェクト第一弾の「秋鮭」の寄付件数は100件を超え、その中からこれまでに40件以上の声が届いているという。

ふるさと納税ファンの間では認知度が高い白糠町だが、一般の知名度は低い。その場所は、釧路市に隣接し、たんちょう釧路空港からクルマで約20分のところにある。

町の決算は一般会計(令和3年度)でみると、歳入約247億円、歳出約246億円で、自主財源は約166億円(67.2%)もあり、そのうち、ふるさと納税などの寄付金が約125億円となっている。歳入のほぼ半分が寄付金といった構図だ。

農業、漁業、林業の1次産業およびその加工業が盛んな「食と食材のまち」で、しそ焼酎「鍛高譚」生誕の地でもある。秋鮭、ししゃも、タコ、ツブなど水産物の水揚げも多く、最近は鮭の鮮度を保つ「船上放血神経締め」や、毛がにの鮮度、食感などを保持・再現する「CAS冷凍」といった新技術で水産物の付加価値を高めている。

年間を通じて日照時間が長く、夏も冷涼な気候をいかした農業、酪農に従事する人も多い。畜産は牛だけでなく、国内流通のうち国産はわずか0.6%と圧倒的に少ない羊肉を供給する羊牧場も2カ所ある。


酪農もさかんで羊牧場もある(筆者撮影)
酪農もさかんで羊牧場もある(筆者撮影)

ふるさと納税がスタートした2008年の寄付金額は、わずか194万円だった(返礼品はなかった)。2015年にワンストップ特例制度の創設など改正が行われ、返礼品を伴うふるさと納税制度を開始すると、寄付受入額が前年から約80倍の1.6億円になった。

その後、町を挙げての取り組みで実績は右肩上がり。2019年67億円、2020年97億円、そして2021年は約125億円となり、2年連続で全国4位、北海道3位となった。受入額はスタート当時の6000倍以上に膨れ上がったのである。

ちなみに2021年のトップ5は次の通り。

①北海道紋別市  152億9700万円

②宮崎県都城市  146億1600万円

③北海道根室市  146億0500万円

④北海道白糠町  125億2200万円

⑤大阪府泉佐野市 113億4700万円


町村では全国トップである。

急拡大を遂げた白糠町のふるさと納税実績。棚野孝夫町長に、ふるさと納税の意義、まちの活性化への展開、今後の展望などを聞いた。


--ふるさと納税でまち、人はどう変わりましたか。

棚野:従来、北海道では取るだけ、出荷するだけの1次産業になりがちでしたが、ふるさと納税で寄付者の方の声を通じて、どんな魅力的な食材を提供できるのか、生産者がそれぞれに考えて取り組むようになりました。その結果、生産や加工が”おしゃれ”になり、付加価値の高いものが生まれるようになりました。現在はすべての一次産業が新たな可能性にチャレンジしています。これも寄附者のみなさまや関係者のサポートのおかげだと思っています。

--ふるさと納税の寄付金は経費を除いた4割程度が自治体に残ります。2021年度は100事業に約10億円を活用したようですが、まちづくりのポイントはどこにあるのでしょうか。

棚野:18歳までの医療費無料化、保育料の無料化などの子育て支援施策、移住・定住希望者向けには新築用地として町有地約100坪の無償提供、新築住宅向け固定資産税の減額などを行っています。直近のふるさと納税寄付金の活用例としては、小中学校統合事業があります。白糠小学校と白糠中学校を統合して、町内2校目となる9年制の義務教育学校として『白糠町立白糠学園』を2022年8月に開校しました。

--子育て支援や移住・定住政策にも力を入れています。

棚野:この4年間で62世帯、199人が移住されてきました。そのうち中学生までのお子さんが98人です。約半分が近隣自治体からで、その他は札幌市、帯広市、函館市など。道外は全体の19%で、東京都や神奈川県、石川県などからも移住されてきています。


白糠町の人口のピークは昭和35年ごろで約2万3000人でした。炭鉱があった時代です。それから60年以上たち、炭鉱は閉山し、白糠の人口は7000人台になっています。この先のビジョンですが、人口は6000人から7000人で、働く人が3500人から4000人といったまちづくりができればいい。無理に人口を増やすのではなく、ある程度の規模のなかで身の丈にあった「幸せなまち」を目指したいと思っています。

【山田 稔 : ジャーナリスト】