せっかくの努力が裏目に出ている可能性が


回転寿司チェーンはいかに「寿司テロ」を防げるか
回転寿司チェーンはいかに「寿司テロ」を防げるか

いわゆる「回転寿司(すし)テロ」が止まらない。「もう回転寿司には行けない」という声も聞こえてきて、回転寿司業界が対策に追われている。事の発端は、「はま寿司」で撮影された、レーンを流れる寿司にワサビを勝手に乗せる動画だ。これを皮切りに、「スシロー」や「くら寿司」でも、類似のイタズラ動画がSNSで次々と拡散されている。中には4年前のものとみられるものもある。

こうした問題に対して、回転寿司各社は毅然(きぜん)とした対応を取る姿勢を示している。はま寿司を運営する株式会社はま寿司は、客からの謝罪の申し入れを断り、警察に相談の上、被害届を提出。同様に、スシローを運営するあきんどスシローも「警察と相談し刑事民事の両面から厳正に対処する」という声明を発表するとともに、くら寿司も過去にさかのぼって警察に相談し、場合によっては相応の対応を取っていく。

ただ今回の回転寿司テロは、いわゆる100円回転寿司チェーンと呼ばれる店舗で起きている。「回転寿司 根室花まる」や「金沢まいもん寿司」「がってん寿司」に代表されるグルメ系回転寿司ではまだ同様の事件が起きていない。


回転寿司チェーンが力を入れる3つの戦略


あくまで現時点では、という前提だが、回転寿司テロが100円回転寿司チェーン特有の問題とすると、その背景には「低価格の維持」と「テクノロジー化」「ファミレス化」という回転寿司チェーンならではの戦略の課題が見えてきた。

まず低価格の維持だ。原材料費の高騰などの理由により、昨年、スシローが最低価格を一皿120円、くら寿司が一皿115円に値上げを行い、大きな話題を呼んだ。しかし、スシローは中国では一皿170円の価格設定をする一方、アメリカで店舗展開をするくら寿司も現地では一皿300円と日本より高価格で提供している。

各国で給与水準が違うので、単純な物価比較はできないが、日本で値段を上げられない背景には、多くの日本人の可処分所得が減っている事情がある。実際、スシローやくら寿司が値上げをしたときも、「回転寿司にいきづらくなる」という声が聞こえていた。今後、さらなる値上げとなると、どれだけ受け入れられるかは不透明だ。

一方、原材料費だけでなく人件費の高騰も続いている。東京都と神奈川県、大阪府では、アルバイトの最低時給が1000円を超えた。一方で、外食業界は慢性的な人手不足に悩まされている。必要な人材を確保するには、平均以上に時給を上げざるを得ない。その結果、あまり人数をかけると低価格が維持できなくなってしまう事態が起きている。

また、そもそも回転寿司は原価率も高い。一般的な飲食店では原価率が20〜30%だ。その中で100円回転寿司チェーンだと40%を超えて、中には50%近い企業もある。つまり、お客にそれだけ還元しているということだ。

こうした中、低価格を守るため、各社がテクノロジーの活用に力を注いでいる。自動案内やタッチパネルでの注文、セルフレジが導入され、入店から退店までスタッフとコミュニケーションをしなくてもいい店舗もあるほどだ。テクノロジーは仕入れや物流、調理にも利用されている。


周りの目が届きにくい環境になっている


最後に、ファミレス化だ。近年、回転寿司は業態として進化を続け、デザートやサイドメニューなどが豊富になり、ファミレスと遜色のないメニューラインアップとなっている。コロナ禍では、「ガスト」や「ロイヤルホスト」が大量閉店してファミレスの苦戦が目立った一方、回転寿司は家族連れを中心に好調だった。

コロナ禍で息苦しさのある日常の中、寿司というぜいたく感のある食べ物を、家族や気の置けない仲間とゆっくりと楽しめる点が人気を集めた要因だろう。コロナ禍の勝ち組とまで言われたのが回転寿司業界だ。

以上を踏まえて、なぜ回転寿司テロが100円回転寿司チェーンで多発しているのかを探っていきたい。

100円回転寿司チェーンの客単価は1000円〜2000円なうえ、メニューが豊富なので幅広い層が来店しやすい。加えて、店内にはファミリーでゆっくりと過ごせるボックス席が並ぶとともに、テクノロジーの活用で省人化が進んでいる。つまり、店員やほかの客の目を盗みやすい座席も少なくなく、“悪ノリ”をしやすい環境になってしまっているのではないか。

それでは、どうすれば同様の事件が防げるのだろうか。もちろん刑事民事の両面から厳正に対処する方法も効果を発揮するだろう。実際、過去にくら寿司は、飲食店を中心に相次いだ「バイトテロ」の流れに終止符を打った実績を持つ。

2019年2月5日、くら寿司のアルバイトが、ゴミ箱に捨てた魚をまな板に戻す様子が撮影された動画がSNSで拡散され、一気に炎上した。その3日後、くら寿司は法的措置を取る準備を始めたとのニュースリリースを発表。

そこに「多発する飲食店での不適切行動とその様子を撮影したSNSの投稿に対し、当社が一石を投じ、全国で起こる同様の事件の再発防止につなげ、抑止力とするため」という理由が記載されていて、当時、大きな話題を呼んだ。ただそれ以来、大きな問題となるバイトテロが起きていないので、今回の回転寿司テロでも一定の抑止力になるだろう。


防犯カメラの設置は現実的ではない


併せて、現場レベルでの改善も必要だ。防犯カメラの設置という案があるが、客と店との信頼関係の構築が難しくなるため現実的ではない。また、店内でスタッフが行き交う環境をつくるために人数を増やす案もあるが、そうなると今以上に値上げをしないとビジネスが成り立たなくなる。それを客が許容してくれるかというと難しいだろう。

となると、テクノロジーで解決するしかない。突破口は、同じくくら寿司の「抗菌寿司カバー」だ。抗菌寿司カバーは、ウイルスや飛沫(ひまつ)から寿司を守ってくれるため、コロナ禍では人気が高かった。

それを活用して、注文者しか開けない仕組みにしたりすれば、こうしたイタズラを防げる可能性が高い。さらなる設備投資が必要になるが、回転寿司テロをきっかけに起こる客離れを考えたら安いものだろう。

もともと回転寿司は、高級だった寿司を庶民でも楽しめるようにと考案された業態だ。その後、各社の熱意と独創性があって、誰もが手軽に寿司を食べられることが当たり前となった。今回も業界の創意工夫が問題を解決し、誰もが安心、安全に寿司を楽しめる環境を実現することを、いち回転寿司ファンとして期待している。

【三輪 大輔 : フードジャーナリスト】