青森県の陸奥湾で、養殖ホタテに謎の二枚貝が付着し漁業の妨げになっている。この「厄介者」の正体が、半世紀以上前に養殖試験のため持ち込まれた欧州原産のカキであることが、青森県産業技術センター水産総合研究所の調査で分かった。大規模な養殖試験は1980年代に終わったが、その後も人知れず繁殖を続け、湾内に定着したとみられる。

研究所によると、このカキは欧州原産の「ヨーロッパヒラガキ」。丸く平たい見た目が特徴で、直径は10センチほど。「血の味」と形容される強い渋みがシャンパンや白ワインに合うとされる。古くから生食用としてフランスや地中海沿岸で愛されてきた高級食材だが、近年欧州では病気の流行などで生産量が激減している。

日本には52年にオランダから持ち込まれ、66年に陸奥湾で養殖試験が始まった。新たな水産資源として期待されたが、日本のカキとは異なる独特の味が当時の人の舌に合わなかったためか需要は伸びず、ほとんど流通もしなかった。

しかし、それから40年近くたった最近になって、陸奥湾各地で養殖ホタテに付着する二枚貝の存在が相次いで報告された。2022年、研究所の中山凌研究員が詳しく調べたところ、形状や貝柱のDNA解析からヨーロッパヒラガキと判明した。湾内での生息実態は不明だが、今のところ生態系への大きな影響は確認されていない。

加熱して食べてみたという中山さんは「身は硬く淡泊な味わい。日本のカキと全く違う印象だが、かすかなうまみは感じた」と一定の評価。「半世紀前とは日本人の嗜好(しこう)も変わっているはず。ワインに合う珍味として生食で売り出すことができれば、注目される可能性はある」と指摘する。

ただ、ホタテ生産の妨げになることから養殖は難しく、天然ものを生食で流通させるには大規模な貝毒検査が必要となるなど、活用のハードルは高い。県水産振興課の担当者も「商品化の話は時期尚早」と慎重だ。

中山さんは「ここまで繁殖した要因や生息域など、分からないことが多い。まずはホタテへの付着状況などのデータを集めたい」と話している。

(共同)