「佐渡島(さど)の金山」(新潟県佐渡市)の世界文化遺産登録可否を審査する国連教育科学文化機関(ユネスコ)の委員会が7月に迫り、地元では登録へ期待が高まっている。日本政府や新潟県も登録を目指し国内外でPRに懸命だ。観光客数の維持や離島での受け入れ態勢確保といった課題にも対応が着々と進んでいる。

▽魅力

「専門家は金山の価値を分かってくれるはず。必ず登録されると思い活動してきた」。市民団体「佐渡を世界遺産にする会」の中野洸会長(82)は新潟県議だった1996年、石見銀山(島根県)で世界遺産登録への調査が始まったことに刺激を受け、前身となる会の発足に携わり、30年近く先頭に立ってきた。「人の手で世界最大級の量の金を採掘していた歴史を多くの人に知ってほしい」と期待する。

佐渡市は、7月に登録されれば2024年の観光客数が23年比1・2倍の約50万人になると試算。島内でレンタカー事業を手がける佐渡汽船は事業拡大の構えだ。23年にオープンカーも導入。同社自動車課の奥林将司課長(50)は「佐渡は自然も魅力。気持ちよく走ってほしい」と笑顔で話す。

県や政府もPRに余念がない。花角英世知事は昨年から今年、ユネスコ本部があるパリを複数回訪れ、委員国の大使らと面会。上川陽子外相も1月、東京都内で各国駐日大使にアピールした。

▽受け入れ

課題は周遊を支えるレンタカーの不足。佐渡汽船は90台超を保有するが、今でも大型連休は予約で埋まる。年内にも台数を増やす方針だが、冬場の閑散期は稼働率が大きく落ち込み、どこまで増やすかの判断は難しい。

市は金山関連施設への直行バス運行を決め、休日には公用車をレンタカー会社に貸し出すなど全面支援する。

市観光振興部の小林大吾部長(37)は「インバウンド(訪日客)に対応できる人材を増やす必要がある」と分析する。市はガイド研修を実施、金山関連施設で23年、英語の音声案内が聞けるシステムも導入した。

▽維持

中長期的には観光客数の維持も課題となる。07年登録の石見銀山では08年の81万人から23年には24・6万人に減少。14年登録の富岡製糸場(群馬県)は14年度の133万人をピークに、22年度は31万人まで落ち込み、施設整備に必要な基金が今後不足する恐れがある。

小林部長は「人数だけを増やすことは目指していない」と話す。市は24年度予算に9700万円を計上。体験型旅行商品の開発や販売促進で長期滞在を促す考えだ。「訪れるきっかけは金山でも、別の新しい魅力を発見できる、何回も行きたくなる島にしていきたい」と意気込んだ。(共同)